寿ん

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眠れないほど


重い布団を跳ね除けるかのように、彼は窓を開け放った。とたん、むせかえるほどの甘ったるい空気は逃げ出して、僕らは2人きりになった。

彼は振り返って、決まり悪そうに微笑んだ。
「それじゃ……そろそろ戻ろうか」
それがいい。こんな気持ち悪いところに、これ以上いたくない。
立ち上がって彼の方へ歩いた僕は、その手から窓の主導権を奪った。窓は木枠にしっかり収まって、がちょんと重軽いで鳴いた。

「やだ」

きっと鏡を見ても、同じように面食らった顔が映っているだろう。僕らは目を丸くして見つめ合った。
永遠に続くかと思うほどの沈黙、と、涙。

彼は僕を突き飛ばして、窓を乱暴に開けると、真っ赤な瞳で僕を睨んだ。

その夜、眠れぬほど僕を悩ませたのは、あのねっとりとした甘い空間でも、軽蔑したような彼の目でもなく、また米価が上がったというニュースだった。

12/6/2024, 8:45:55 AM