たつみ暁

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3/12/2025, 10:19:08 AM

「誤字ってるよ」
彼は深々とため息をつきながら、私の書いた原稿の束を差し出した。
「『終わり、また初まる、』じゃあない。『初』は初めてのこととか最初のことに使う字。ここは『始まる』が正しい」
さすが、国語教師の指摘は的確だ。
「小説書く前に小学生からやり直したほうが良くない?」
この、令和の時代には私がパワハラと訴えたら通りそうな、キツい言い方さえ無ければ、最高の指導者なんだが。顔はいいんだから、性格直したらどうですか。
あれ、性格は『直す』もの? 『治す』もの?
「まーた自分の世界に入ってるね?」
原稿をびろびろ振りながら、彼は眼鏡の奥の目を細める。
「君の想像力は買ってるんだから、もっと基礎力を上げなさい。そうすれば、妥当な年齢になった時、賞は勝手に転がり込んでくる」
褒めるのか、けなすのか。
どっちかにしてくれませんかね?

2025/03/12 お題「終わり、また初まる、」

3/11/2025, 11:01:44 AM

「我々の祖先は、この星の海を渡り、この地に辿り着いたという」
先祖代々受け継がれてきた技術で編まれた空飛ぶ船から、満天の星空を見上げながら、兄は幼い俺に語った。
「祖先の星は、資源を掘り尽くし、残り少ない生きる糧を求めて激しく争い、我々には想像も及ばぬ武器をもって、ひとの住めない大地にしてしまったんだ」
その愚かな血を俺たちも受け継いでいるのかと問えば、兄は困ったように赤い瞳を細めて苦笑した。
「おまえはまだ幼いのに、皮肉屋だな」
ぽん、と。頭に兄の武骨な手が乗せられ、くしゃくしゃと髪を撫で回される。
来年には、俺もこの船の正式な一員になって、銃を握ることができるのに。子供扱いに頬を膨らませると、兄は声をたてて笑った。
兄の豪放磊落な性格が好きだった。将来のこの国の指導者としての素質を存分に備えたカリスマ性を尊敬していた。
今は子供扱いでも、何年かすれば、頼り甲斐ある右腕として立てることを夢見ていた。

今、大人になった俺は、一人で星を見上げている。
『ひとは命を終えたら星に還るんだ』
そんなことは無かった。兄の魂のゆくえを、俺は知っている。
兄が守るこの船で、守ってみせよう。
狂った神が滅ぼそうとしている、この世界を。

2025/03/11 お題「星」

3/10/2025, 10:36:44 AM

もっと綺麗になりたい
もっと痩せたい
もっとお金が欲しい
もっと昇進してお給料増やして
もっとまともな彼氏が欲しい
もっと優しい妻が欲しい
もっと優秀な子供が欲しい
もっとあたたかい家族が欲しい
もっと強大な権力が欲しい
もっと人気が欲しい
もっと領土が欲しい

もっと もっと もっと

「人間の欲は果てしないものだ」

神様は豪奢な椅子に深々と座って、疲れきったため息をつく。

『ただ1つ願いが叶うなら、何を願うか』

天使を遣わせて訊いてみたら、人間たちは自分のことばかり。
アダムとイブが楽園から追われた時から、何にも進歩していない。
天使が持ってきた、願いを書き連ねた紙を気怠くめくった神様の目に、1つの願いが留まった。

「これなら叶えてもいいだろう」



「わあ」

病気で外に出られない女の子は、ベッドの上から窓の外を見て、歓声をあげる。
昼なのに夜のように暗くなって、この地方では絶対に見られないオーロラが、美しいカーテンをなびかせていた。

『一度でいいからオーロラを見たい』

それが、その子の願いだった。

2025/03/10 お題「願いが1つ叶うならば」

3/9/2025, 10:10:59 AM

嗚呼、七年二ヶ月続いたソシャゲがさっき終わった。
自分はちょっと触って、難しくてすぐにやめてしまったけど。
ちゃんと完結したというのだから、感服と、寂しさと。

オフライン版をダウンロードしとけと皆が言っていた。
自分はめんどくさがって、スマホのメモリを惜しんで、結局しなかった。
嗚呼、己のものぐさを疎ましく思う。

そんなところに、オフライン版だけなら明日以降もダウンロードできるかも、という話が。
嗚呼、もう一度物語を追えるだろうか。
終えることが、できるだろうか。

2025/03/09 お題「嗚呼」

3/8/2025, 10:19:23 AM

子供の頃、仲良しの子がいた。
その頃は空き地に入り込むなんて容易くできたから、工事が中断して放置された土地の、鉄材が置かれた裏に、秘密基地を作った。
二人だけの秘密の場所。
ちょっと背徳的だけど、二人きりの秘密を共有するのが楽しくて、アルミの雨よけをかざした下で、日が暮れるまで話をした。

だけど、ある日。

いつも通り秘密基地に入ろうとすると、笑い声が聞こえてきた。
あの子だけじゃない。クラスで人気一人占めのお調子者。

「あんな根暗とずっと一緒でしんどかったでしょ? これからはわたしといれば安心だから!」

あの子が何と答えたかまでは聞かなかった。
あいつが、二人きりの友情にずけずけ踏み込んできたのが、あの子を横取りしたのが、悔しくて、悲しくて、怒りが治まらなくて。
うちに帰って大声をあげて泣いた。

不登校になって、結局父の転勤で転校するまで、あの子には会わなかったし、そのまま音信不通になった。

ねえ、秘密の場所を暴かれたおまえは今、どんな気持ち?
大人になっても表面だけ良くて。
ひとのものを欲しがって。
ひとの旦那をたぶらかして。
この不倫現場を押さえるのに、けっこう苦労したし、お金もかけたんだよ?

ああ、わたしはどんな顔をしてるかな。
数十年越しに卑怯者を社会的に抹殺できるチャンスが、しっかりと手の中に握り締められている、今この時に。

2025/03/08 秘密の場所

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