古来、魔族は魔法を使う種族として認識されていた。
しかし世代を経て、人間と血が混ざることで、人間の外見を持ちながら魔法を使う者が現れるようになった。
彼ら、彼女らは『混ざり者』と呼ばれ、ある国では神子として崇められ、またある国では災厄をもたらす悪魔として恐れられた。
僕の幼馴染が魔法を使うことを知っているのは、村の人間だけだった。
先代の魔王を倒した勇者が治めるこの国で、『混ざり者』であることが露呈すれば、魔王の眷属として、たちどころに断罪されてしまうだろう。
僕らは、自分をかえりみず村人に回復魔法を施す彼女を、必死に部外者の目から隠した。
だのに、運命とは卑怯で。
村の近くで馬車が横転した隊商を助けた時、彼女は瀕死の子供に回復魔法を使ってしまった。
物事の善悪の区別もつかない幼子は、ぺらぺらと街で彼女のことを喋ったのだろう。あるいは隊商が村のそばで事故を起こしたこと自体が、仕組まれていたのかもしれない。
その日のうちに、国王直属の騎士団がやってきて、『混ざり者』を隠匿した罪として村人を惨殺し、彼女を連れ去った。
「ごめんね」
連れてゆかれる直前、彼女は僕に駆け寄り、遅効性の回復魔法をかけていった。
血のにおいが充満する中、薄明が去り、僕は立ち上がった。
昇る太陽が、すっかり傷の癒えた僕を照らし出していた。
彼女を取り戻すため、そして村の皆の無念を晴らすため、僕は剣を手に取り旅立った。
その道の途中で、僕と同じように、『混ざり者』の大切なひとを奪われた仲間たちができた。
その中で、
「勇者王は『混ざり者』を集め、その魔力を吸い上げて、大きな古代魔法を行使しようとしているらしい」
という情報をつかんでいた仲間がいた。
彼女をそんなふざけた真似の犠牲になど、させやしない。
たとえ救世主に弓引く行為だとしても。
堅牢な城塞を針で崩そうとするような脆弱さだとしても。
僕らは奇跡という名の魔法を、起こしてみせよう。
お題:魔法
お前の言うことは間違っている、意味なんて微塵も無いと、クラスメイトたち全員の前で否定された。
わたしはわたしの好きなものを、好きだと言っただけなのに。
わたしが弱気で言い返せないとわかっているから、あの子は居丈高に振る舞う。自分の矮小さを誤魔化して、自分が正しいと知らしめるための標的にする。
屋上に続く階段に座り込んで、声を殺して泣いた。
外からは雨の音が聞こえる。
余計に沈んでゆきそうなところに、差し出されるハンカチが。
「悔しいよね」
あの子のもう一人の標的の子が、眉を垂れて苦笑している。
「なんで君は平気なの」
あの子に何を言われても、苦笑するばかりで言い返さない彼女の強さが欲しい。ハンカチを受け取り、顔を拭きながら問いかけると。
「平気なんかじゃないよ。私も独りで泣いたりするよ」
でも、と彼女はわたしの手を引いて、屋上への扉を開く。
「空も泣いた後は、綺麗に笑うだろう?」
いつの間にか雨はやんで、七色の虹が弧を描いている。
泣いたっていいんだよ、僕は君たちを見守っているから。
そう、告げるかのように。
お題:君と見た虹
さっきまでドン底だったの。
仕事も人生も上手くいかなくて、自分なんか生きてても仕方無いなーって。
それがさ。
友だちがくれた一報。
推しカプが描かれた公式イラスト。
それだけで、舞い上がっちゃったのよ。
オタクで良かったーって、今、すごく嬉しい。
公式の燃料投下はオタクを元気にしてくれるわ。
もうちょい頑張るか!
いそいそと、履歴書を引っ張り出して、打ち込み始める。
もう、窓を開けて夜空に飛び出して駆け抜けたいけど、そろそろテンション落ち着いてくれないかな!?
お題:夜空を駆ける
嗚呼、風よ
どうか届けてこの想い
あのひとのもとへ、ひっそりと
秘めたる気持ちは
「お前、このアプリ始めてから、ラブロマンスしか書いてないじゃねーか」
わたしの手元を覗き込んで、腐れ縁のあいつが笑う。
「人のスマホ画面、勝手に見ないでよ」
ぷっくり頬を膨らませても、あいつは飄々と肩をすくめてどこ吹く風。
「そっちこそ、いつもひねくれたお題の使い方ばかりして。たまには真面目に書けっての」
「オレのは芸術ですうー。お前の砂糖菓子みたいな話とは相容れないんだよー」
親同士が親友の、生まれた時からほぼ一緒の幼馴染。
ねえ、そろそろ気づいてよ。
わたしがラブロマンスばかり書いて、誰に届けたいのか。
この想いを。
お題:ひそかな想い/たつみ暁
夢の中で必ず会うひとがいた。
最初は赤ちゃん。次は歩き出したころ。
ブロンドヘアに碧眼の少年は、すくすくと背が伸び、わたしの成長に合わせて大きくなってゆく。
あなたは誰?
いつだったかそう問いかけて手を伸ばしてみたけれど、夢の中は儚い泡沫。彼はわたしに答えること無く、姿が霞んで。
そうして空に向けて手を伸ばしたまま朝を迎えた。
彼のことを夢に見なくなった頃、この国の王子が、運命の女性をさがしているという噂が耳に入った。
そのすがたかたちが、わたしとぴったり一致することは、周りの誰もが気づいていた。
あなたが彼?
わたしの家に向かって近づいてくる馬車を、胸を高鳴らせながら待ち受ける。
果たして、馬車から降りてきた王子は、ブロンドヘアを揺らし、碧眼を細めて。
「会いたかったよ、きみ」
真っ赤な薔薇の花束を、わたしに向けて差し出した。
お題:あなたは誰/たつみ暁