眠りにつく前に、ひとつだけ。
夜が来る。闇が私の背中を覆う。
今眠って、起きたらまた朝が来る。
当たり前のことだ。
日は沈んで、また昇って、そうやって時は流れる。
なんの変化もなく、面白くもない日々がまた明日も続く。別にそれが嫌な訳じゃないけど。
寝る前に空を見上げたって、目に映るのは光り輝く星空なんかじゃなく、無駄に眩しい街灯の光。
ああ、面倒だな。
なんてまた思う。思ったってどうにもならないのは知っている。
だけどそれでも、布団を被って瞳を閉じる直前に、頭の深いところを横切っていくのはあなたの影。
もうここにはいない、あなたの影。
つまらない日々は明日も続く。でも、その前にこんなことを思い出してしまうのは、きっとまだ、心のどこかで願っているから。
星に願いを、なんて届くはずないけど。
眠りにつく前に、ひとつだけ、小さな祈りを。
あなたにまた会えますように。
「終点です」
そんな声とともに、扉が開く。
私の心にも、終点があればいいのに。
ぐるぐる悩む気持ちも、終点に着いたらみんな降りて、すっきりして。
そんなふうになれば。
何にも上手くいかなくて、イライラすることも。
ちゃんと頑張ってる人を見て、自分に腹が立つことも。
孤独に不意に気付いて、逃げ出したくなることも。
ないのに。
でも、考えるのをやめてしまったら、私たちは本当に楽になれるのかな。
このぐちゃぐちゃな感情を無理やりに消して、思考を止めることが、本当に正しいのかな。
それに正解なんてない。でも、正解を求め続けることは、決して無意味なことじゃないはず。
だから、やっぱりこの心に終点なんてない。
私たちは今日も、各駅停車でゆっくり、環状線を回っていく。
人と関わったって、いいことはない。
誰も私を理解しない。理解してくれない。
私もきっと、誰のことも理解していない。
「話せばわかる」なんて嘘。
私を苦しめているのは、結局言語化できない辛さなんだから。
それなら、もう塞ぎ込んでしまえばいい。
そう思っていた。
でも、やっぱり、私は諦め切れない。
人に理解されたいと思ってしまう。あの人を理解したいと思ってしまう。この感情を分かち合いたいと、分け合いたいと思ってしまう。
上手くいきっこないのに。
そんなことを試みたって、壁にぶつかるだけ。
曲がって曲がってどれだけ歩いても、結局はいつも行き止まり。
それでも、私たちはきっと歩くのだろう。どんなに突き放したって、突き放されたって、きっと、前へ進もうとするのだろう。
まだ誰も、諦めてなんていないのだ。
だけど、そうやって壁にぶつかり続けたら、きっと怪我をする。みんな、そんな怪我を背負って、生きている。
だから、たまには、立ち止まってもいいんじゃないだろうか。
人と関わるのに疲れたら、たまには歩くのをやめて、休むのもいいんじゃないか。
1人では、どうせ生きられないのだ。そんな人間にとって、1人の時間は貴重なものなのかもしれない。
1人が好き、という人は多い。それはきっと、いつも人を理解しようとし、理解されようとし、なんとか前に進もうとする人々の安らぎの時間。
やっぱり、1人では生きられないけれど。やっぱり、諦めるのは無理だけど。
今だけは、1人で。
届かぬ想いを胸に抱いて。
どうして想いを伝えるのはこんなに難しいのかな。
あなたへの気持ちはこんなにも大きなものなのに、それはあなたには伝わらないのだから。
誰にだって、そんな想いはあるのだろう。
ありがとう。
ごめん。
大好き。
みんな言いたかった言葉のはずなのに、チャンスがやっと訪れたら。
なぜだろう、胸の奥に隠れてしまう。
恥ずかしいとか怖いとか、さっきまでは見ないふりしてた感情が溢れてきて、わたしたちの脆い勇気は簡単に崩れてしまう。
そしてまた何も無かったことにして、いつも通りのすまし顔で日々を過ごす。
もし、全ての人々の想いが一気に溢れ出たなら。
恥ずかしいかもしれない、怖いかもしれないけど、そっちの方が、楽なのかも。
でも実際にはそんなこと起きっこないし、結局わたしたちは頑固で、心の金庫には南京錠がかかったまま。
でもそれを開ける鍵を、わたしたちは知らない。
だから誰かが無理やり扉を破って入ってくるのを、待ってしまうのだろう。
それでもわたしたちが金庫を捨てないのは、伝えられなくても、届かなくても、想いはそこにあるからだ。
いつか、鍵が見つかりますように。
そう、どこかで祈ってしまうからだ。
届かぬ想いはきっと、あなたの胸にも眠っている。
快晴の空。
わたしの心も、こんな風に。
惜しみなく晴れてくれれば、いいのにな。