「紅の記憶」
景色が流れていく。
2人がけの向き合う形のソファーに座り、線路の上を
滑りながら移り変わる景色を眺めた。
バイトの帰り道。
いつもなら直帰するがなんとなく家に帰りたくなくて
どこか違うところへ行ってみようかと考える。
最寄り駅で降りるのをやめてみた。
最寄りをふたつ過ぎたところで、向かいのソファーに
親子が座った。
5歳くらいの男の子と、母親であろう女性だった。
真向かいに座った男の子はもみじの葉を手に持ち、茎の部分をくるくる回していた。
さっき拾ったのかな。
たしかにもみじ生えていたなと思い出しながら、男の子のさじ加減で不安定に回るもみじを見ていた。
どんどんふにゃふにゃになっていくもみじの葉から、
何故か目が離せなかった。
私も、もみじの葉拾って帰ろう。
そう思った。
「夢の断片」
夢を見た。
またみんなで会える夢。
高校のとき、よく通ったクレープ屋で、
とりとめのない話を永遠と。
すごく幸せな夢だった。
そう感じたのも束の間、ふと気づくとそこはいつもと何ひとつ変わらない自分の部屋だった。
なんだ、夢か。
夢見心地な頭を現実に引き戻し、スマホを手にとる。
画面には、通知が1件。
「じゃあ、お墓参りは来週の日曜日で」
と送られてきていた。
そのまま文を眺めていると、了解です系のスタンプが次々送られてきて、上へと消えてしまった。
焦って、私もその系列のスタンプを送る。
ひとり、ひとりと既読が増える。
そこからトークは進むことなく例の日曜日を迎えた。
全員分の既読が、つかないままで。
卒業の日に交わした約束は、実現することなく儚く砕けたのだった。
もう、断片すら見つからない。
「見えない未来へ」
未来が見えなくて、もう死んでもいいと心のどこかで考えている人はどのくらいいるのだろう。
そんな人にはどんな言葉を紡げば良かったのか。
正解が分かる人はいますか、
あの頃、深掘りしないことがあえての優しさだと
思っていた私は大馬鹿だった。
そう気づいた時には、もうすべてが遅かった。
来年の今頃は、もうお酒飲めちゃうね
みんなで飲みたいねって話したよね、覚えてる?
本当は年越しながら飲もうってなってたけど、
でもあなた早生まれだったからさ
やっぱ春ぐらいにしよっかって。
言ったじゃん、
私、ご冥福をお祈りしますなんて初めて使ったよ
あんたのお陰で、私の未来が濁ったよ
「吹き抜ける風」
今の時期に吹く風の冷たさは尋常ではない。
夜のバイト帰り、見慣れすぎた道をしゃかしゃかと漕ぎ進めていく。
シフト被ったおばさんは寒いから車で来たと言っていたか、大人ってずるいな。
教習いつ行くかな、なんてカレンダーと口座の残高を交互に頭に思い浮かべる。
どちらも余裕がないし気持ち的にも面倒で、最終的には脳から抹消して解決させることにした。
ふと目の端から人口の光が差し込んだ。
寒すぎて横なんて見ていられないのだがあまりの明るさに目を向けると、
でかでかとした おでん の文字が激しく揺れていた。
コンビニ様、今年の冬もお世話になりますという思いを込めて、相変わらず慌ただしく動くのぼりに心の中で敬礼した。
口の中で溶けてゆく大根が、美味だった。
店員に顔を覚えられないようにしないと。
「記憶のランタン」
人の記憶というのは、虚しいものだ。
どれだけ尊い記憶でも時間とともに薄れていき
いつか消滅してしまう。
何年か経ったら、楽しかった今日のことも忘れてしまうのかなと電車に揺られながら考えた。
時間を忘れてファミレスで語り合ったこと
ほっぺが落ちるほど美味しかった料理
そして、
何より貴方を愛していたこと
忘れないよう日記を書こうかと思うけど、文字にしてしまうのはなんとなく嫌で、頭の中に残したままでいる。
本当は忘れたいのかもしれない。
時の流れに身を任せ、思い出せなくなるその日をひっそりと待ち続ける。
もうそろそろいいかな、見えなくなったかな。
時が経ち何を飛ばしたんだったかと思考を巡ったが、街に流れるクリスマスソングでランタンは強制送還された。
なんかこのランタンずっといるよな?
もういいよ、
わたしの人生照らしすぎだよ。