「君の目を見つめると」
いつものように教室のドアを開ける。
おはよーと無気力に声をかけると、
朝の挨拶をすっとばかして
『ねえ今日の私いつもとどこが違うと思う?』
と言われた。
聞く人を彼氏と間違えてるなと思いながら友達の顔を
じっと見る。
こういうのは不得意分野だと毎回言っているのだが
構わず聞いてくる。
まんまるの綺麗なカラコン
左右対称に引かれたアイライン
ぷっくりとした涙袋
うん全然分からんぞ。
そもそも服装やその日の気分でメイク変えるんだから
"いつも"という概念は彼女に存在していないと思う。
しばらく眺めて、 ふと気づく。
「つけまがない!!!」
珍しく正解できた記念にポッキーを1本頂戴した。
「星空の下で」
星はいつも、味方をしてくれる。
このまま夜が終わらなければいいのに
そんなふうに思う日も受け入れてくれている。
人は死んだら星になると言われている。
顔も知らない誰かに見守られて、今日も生きている。
死者でも人の役に立っているというのに、
私はいったいなにをしているんだろう。
人生に手応えが欲しい
そう星に願ってみたり。
「それでいい」
今年も、この季節がやってきた。
履修登録である。
すごく慣れたような言い草だが、全然まだ2年目だ。
明日は友達と大学で先生に相談しながら一緒に決めることになっているのでそれまでにはおおかた考えておかなければならない。
私は大量にある資料たちやパソコンを広げ、にらめっこを続けている。
ように見えるだろうが、実際は少し違う。
私が履修登録する上で考えておかないといけないのは、この授業面白いかな、だけではない。
誰が一緒になりそうか
流れでお昼ご飯を食べることになっても大丈夫か
帰りのバスが一緒になっても大丈夫か
2年目のいいところは、1年目の反省を生かせるところにあるなとしみじみ思う。
1年目で所属するグループを間違って少し気まずい人々がいるため、絶妙にずらしたいのだ。
自分で言うのもなんだが、別に嫌われているわけではない。
会話できないほど気まずいわけではない。
だが、間が持つか絶妙なラインなのだ。
そういうところも込みで考えていかなければ。
我ながらびっくりするほどのうっかりさんだという自覚があるので、先生に必修の取り漏れがないかを確認してもらえるのはありがたい。
悩んでるものがあれば相談してねとも言われている。
だが、これは授業の内容とかではなく私の心持ちの話なので、相談したとてしょうがない。
なんなら友達と行くため、余計そんなことは言えない。
実はこの友達も、距離感が難しい。
多分もう別の子に声をかけて断られており、自分はその代打なのだ。
本命ではないことが見え見えでいやらしい。
いろいろ思うけど、結局は自分がどう思うかだ。
それに尽きる。
想定はいくらでもできるが、実現するのはひとつだけ。
考えすぎてしまうとこも、
絶妙なラインの人間をあちこちに作ってしまうとこも、
人に頼れないとこも、
全部ひっくるめて私なのだから。
どうせ四方八方に気を回してもから回るだけなので
自分の健康だけ考えて生きていこーっと。
うん、それでいい。
それがいい。
「幸せに」
がらんとした部屋で小さめの段ボールを開ける。
中には可愛らしいぬいぐるみやキーホルダー、マグカップなどが窮屈そうに詰まっている。
ひとつひとつの品に彼との思い出が詰まっていて、記憶が脳みそをゆっくりと巡る。
巡っていく速さや深さから、彼との日々が濃くて尊いものだったと思い知らされる。
時間はあまり経っていないのにこの頃の自分がとても若く見えて、眩しかった。
まだ見慣れないひとりきりの部屋にきらきらした思い出は似合っておらず、再び段ボールに蓋をする。
彼との日常が消えないように。
いつだって思い出せるように。
かすかな残り香さえ失いたくなかった。
食器や化粧品に日用品…などなどもっと他に荷ほどきしないといけないものは山ほどあるのに、私は未だに過去に縋り続けている。
未来しか見ていない彼とは正反対に、私だけがまだ子どものままだった。
明日から4月で、私も彼も地元にいない。
もう、会うことはないんだなと改めて思う。
確かに一緒に過ごしたはずのあの日々は、あっという間に新生活で塗り替えられて消えてしまうのだろう。
彼が今何をしているのか、
誰といるのか、何を想っているのか。
夢を追いかける彼を支えることのできなかった私には、
そんなこと知る権利がない。
ただ“元カノ”ってだけで一丁前に偉そうだけど、
そんなことは分かっているけど、
せめて最後に、あなたの幸せくらいは願わせてほしい。
わがままな願いを、ダンボールと共にクローゼットの奥に押し込んだ。
壁にかかった明日着るスーツを、しばらくその場で眺めていた。
「ハッピーエンド」
大学生にもなるともうどんな話題から始めようとも最終的には恋バナにたどり着く。
毎回私にも話のターンが回ってくるが、言えるようなことが何もないためいつも当たり障りのないことを言っているのだが。
うーんでも可愛いんだからいつかできるよ!と言う言葉が心からの言葉ではないことは顔を見れば分かる。
どこか下に見られているのをうっすらと感じるのだ。
恋愛が全てではない、と思うのは負け惜しみだろうか。
みんなが恋愛に飛び付く必要はないんじゃないかな。
何をもって“幸せ”とするかは人それぞれなのだよ。
正直にいうと、
大好きな人と一緒に
大好きな映画や小説を楽しみながら
大好きなお菓子を食べることが私の幸せだ。
その暮らしの延長線上で死にたい。
それが私の、私だけのハッピーエンドだ。
そう考えながら今日も今日とて。