「君と紡ぐ物語」
彼の背を目で追いかける。
まだ交わっていない貴方と私。
2人の視線がかち合う日を待ちわびて、私は今日も
過ごしている。
もし貴方と恋人になれたとしたら、
私と貴方はどんな顔でどんな会話をするのだろう。
喧嘩したとき先に謝るのはどっちだろう。
貴方は私のどこを好いて、どこを嫌うのだろう。
そうぼんやりと考えていた。
昨日までは。
2人だけの物語を紡ぎ始める日は
夢のまた夢、か、、?
「時を繋ぐ糸」
ぱらぱらと音を立てて紙をめくる。
紙どうしの擦れる音が心地いい。
私の知らない時代を生きていた人々との交流が叶うところが、本のいいところだと思う。
偉人が繋いでくれた糸を断ち切ることの無いよう、
繋いでいきたい。
いつまでも、いつまでも。
いつか、私も。
そう決意を新たにしながらテーブルに置きっぱなしだったペンと原稿用紙に目をやった。
「君が隠した鍵」
おーい、ねえってば。
開けてよーー。
彼女は俺が鍵を持っていないときに限って玄関にロックをかけていることがあった。
俺が外から叫ぶと彼女はくすくす笑いながら開けにきてくれる。
これは2人の恒例行事になっており、その時間が愛しくてわざと鍵を忘れていくこともあった。
おーい、ねえってば。
開けてよーー。
誰もいない部屋に向かってぽつりと呟く。
俺はいつから彼女の心のドアも開けられなくなったのだろうか。
隠されたんじゃない。俺が、置いてしまったんだ。
ポストを開けると、からんと音を立てて鍵が落ちた。
拾うこともせず、俺は玄関の外で立ち尽くすしか
なかった。
「手放した時間」
君と離れてから何年経っただろうか。
思い出す回数も、確実に減っていて安心する。
先に言っておくが未練がある、とかではない。
それなりに新しい彼女もできたし充実した日々を送っているつもりだ。
だけどもし君と出会ってなかったら俺は、全く違う人間だったかもしれなくて。
確実に、君の趣味嗜好が俺の中で生きていた。
いつか会えたら、また君と話がしたい。
そう思っていたが、同窓会で久々に見た彼女は俺の想像とは少し違っていた。
誰の影響を受けたのか。
俺ではできなかったことを成し遂げた奴がいるという
事実に、少し悔しくなる。
君を手放した時間が、惜しかった。
「紅の記憶」
景色が流れていく。
2人がけの向き合う形のソファーに座り、線路の上を
滑りながら移り変わる景色を眺めた。
バイトの帰り道。
いつもなら直帰するがなんとなく家に帰りたくなくて
どこか違うところへ行ってみようかと考える。
最寄り駅で降りるのをやめてみた。
最寄りをふたつ過ぎたところで、向かいのソファーに
親子が座った。
5歳くらいの男の子と、母親であろう女性だった。
真向かいに座った男の子はもみじの葉を手に持ち、茎の部分をくるくる回していた。
さっき拾ったのかな。
たしかにもみじ生えていたなと思い出しながら、男の子のさじ加減で不安定に回るもみじを見ていた。
どんどんふにゃふにゃになっていくもみじの葉から、
何故か目が離せなかった。
私も、もみじの葉拾って帰ろう。
そう思った。