【あなたへの贈り物】
付き合って初めての記念日。
あなたはきっとサプライズは嫌いな人。
それでも何か贈り物をしたくて私はここずっとあなたのことばかりを考えてる。
それでも何をあげたらあなたは喜んでくれるのか答えは未だ出ないままだ。
「はぁ~…困ったな」
本当に困った。
気むずかしいあなたは何を考えてるのかわからない人。
だけど、私にだけはすごく優しい。
「だから何か贈り物がしたいのに…」
何を贈ったらいいか分からないなんて彼女失格だ。
「う~ん、う~ん…」
「何難しい顔してんの?」
「はっ、」
「今度は何?」
「い、いやぁ~へへ」
何時の間に帰ったのか。
背後から彼に覗き込まれてた。
全然気付かなかった。危なすぎる!
「お帰りなさい」
「うん、ただいま」
「…」
「何?」
「ううん」
「?」
彼はクローゼットに着てたジャケットを掛けている。
「(もう直接聞いてみようかなぁ)ねぇ」
「うん?」
「今何か欲しいものある?」
「何急に?」
「何となくぅ?」
「ふ~ん…それって何でもいいの?」
「うん、何でもいいよ」
「じゃあ、お前」
「うん、わかった…へっ?」
「記念日」
「え?」
「わかりやすいよな」
「っ」
そう言って私の額にキスしてきた。
それから意地悪に笑って、
「すっげー楽しみにしてる。
風呂。入ってくるな?」
「は、はい…」
何だかとんでもない展開になってしまった。
記念日の日私はいったいどうなってしまうのか。
今からどきどきが止まらないのでした。
【羅針盤】
誰もが心に羅針盤を持っていて、それに気付かずに生きている。
目を閉じて、自分の心に囁けばきっと答えはそこにある。
そう簡単なことでもないのも知ってる。
信じて進むことが何より難しい。
【明日に向かって歩く、でも】
疲れてしまった。
何かを頑張ることも、生きていくことも。
全部放置したい、してしまいたい。
【ただひとりの君へ】
暗闇の中をただ歩く。吐く息は白く。辺り一面白銀の世界。誰とも会うこともなく、ただ歩く。
ふと立ち止まり頭上を見上げた。
空は灰色。
そして、己が手を見下ろせばそれは真っ赤に染まっている。
地面の上に降り積もったばかりの雪の上にその手を埋めていく。
白かった雪は血の赤に染め上げられていく。
それを見ていると何だか恍惚と興奮に似た感情が溢れだしてくる。
自分はやはり何処かおかしいのかもしれない。
己が冒(おか)した罪の重さを知ってもなお心は何も感じない。
一番大切で大事で失くしたくないモノだった。
それなのに…。
肉体を失えば魂は自分のところに残るとそう思えた。
君を誰にも渡したくなかった。
初めての感情だった。
こんな感情生まれて一度だって感じたことはなかったのに。
自分だけのモノにしたい。失いたくない。自分だけのモノでいて欲しい。
そして、遂にその日は来てしまった。
自分は己の欲に負け、君をこの手で殺めた。
何処を探しても君はもういない。
たったひとりの大好きな君。
【風のいたずら】
毎日寒い。
雪が降ったから尚更。
それでも外に出なくては行けなくて。
何のいいことがあるのかと毎日思う。
そんな時風か私の目の前を掠めた。
その寒さで思わず目を閉じた。
あっ、そう思ったときには遅かった。
転ぶ!とそう覚悟していたのに。
その痛みは何時まで経っても訪れなかった。
ぎゅっと閉じた目を開いてみる。
「大丈夫ですか?」
「えっ、」
頭上で声がして見上げると青年の顔が。
一瞬の出来事で頭の整理が追い付かず私はフリーズしてしまう。
「何処か痛いところは?」
「…い、いいえっ!」
「そう。なら、俺は行きます。滑るから気を付けて。じゃあ」
それだけ言い残し青年は颯爽とこの場を離れていく。
しばらく私は呆けたまま、あっ!と。
「…お礼、ちゃんと言ってない」
また、会えるかしら。
その時は改めてお礼を言おう。
こんな出逢いがあるなら、冬の寒さも少しだけ我慢できるかな?