【ただひとりの君へ】
暗闇の中をただ歩く。吐く息は白く。辺り一面白銀の世界。誰とも会うこともなく、ただ歩く。
ふと立ち止まり頭上を見上げた。
空は灰色。
そして、己が手を見下ろせばそれは真っ赤に染まっている。
地面の上に降り積もったばかりの雪の上にその手を埋めていく。
白かった雪は血の赤に染め上げられていく。
それを見ていると何だか恍惚と興奮に似た感情が溢れだしてくる。
自分はやはり何処かおかしいのかもしれない。
己が冒(おか)した罪の重さを知ってもなお心は何も感じない。
一番大切で大事で失くしたくないモノだった。
それなのに…。
肉体を失えば魂は自分のところに残るとそう思えた。
君を誰にも渡したくなかった。
初めての感情だった。
こんな感情生まれて一度だって感じたことはなかったのに。
自分だけのモノにしたい。失いたくない。自分だけのモノでいて欲しい。
そして、遂にその日は来てしまった。
自分は己の欲に負け、君をこの手で殺めた。
何処を探しても君はもういない。
たったひとりの大好きな君。
1/20/2025, 2:30:44 AM