乱雑無章

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8/6/2024, 3:21:29 PM

9. 太陽

痛い。
地面に反射した強烈な光が、ここ暫く外出していなかった俺を待ち構えていたかの如く目に突き刺さった。
引き返すという考えが頭に過ってくしゃみが出た。

諦めてチャリを走らせ、通りを南下していく。
それにしてもクソ暑い。部屋との温度差は優に10℃を超えているだろう。
夏休みも後半に入り、堕落生活がすっかり体に馴染んでいた。

受験生から勉強を抜いたら何になると思う?
ニートだ。毎日何をするでもなく、高3の夏を消費していく。

風呂も洗濯も億劫になるし、どんなに頑張って飯を作っても味気ない。友達から遊びの誘いがあったのは覚えているが、LINEを送れない。元々ゴミ部屋と呼ばれていた部屋はますます散らかり、もう足の踏み場もない。

洗濯と食事だけは家族の分もあるので辛うじて耐えていたが、他は全く手付かず。

収拾がつかなくなって、外に逃げ出した昼下り。
追い風が背中を押す。

着実に家から離れている筈なのに、頭の中は不安で埋め尽くされていく。
帰り道のことを考える。向かい風と後悔。

それらからも逃げようとして漕ぐ脚に力を入れる。
まあ、どうにでもなるし。

知らない道を進んでいる内に日が傾いてきた。頭は痛みで満たされ脚は感覚が薄まっていて、やけに幸せな気がした。サイクリングも悪いものじゃないな。

ふと、このまま進み続けたら死ぬ気がした。水も飲みたいし腹が減った。燃料切れってやつだ。適当なスーパーかコンビニでも探そう。
待て、手ぶらだ。スマホも財布もない。全く衝動的な外出である。
しかし家には帰りたくない。
これからどうしよう。どうにもならないのか。

ここまで遠くに来ても選ぶことからは逃れられないらしい。都合の良い体はいきなり重くなる。視界が狭まり、バランスを保てない。
流れに身を任せるのが一番楽な気がして意識を手放す。こんな逃げ方があるとは思わなかった。



息苦しさで意識が戻ると、布団の上にいるらしく背中には汗で湿ったTシャツがぺとついている。扇風機の音が耳障りで目を開く。寝室には障子から光が取り込まれている。慌ててスマホを見る。17:48。危ねえ、朝かと思った。
昼寝は目覚める度に朝ではないかと焦ってしまうので心臓に悪い。

洗濯物をこまないと。それから夕飯の準備だ。
仕方なく起き上がると視界は暗転し、それでも歩いていると視界の回復と同時に耳鳴りがする。心臓がやけに忙しそうに動いていて虚しくなる。

今日も無駄な一日だった。
明日こそ、三食食べて運動して勉強しよう。
思ってもないことを頭の中で唱えながらベランダに向かう。
サンダルに足を通そうと下を見ると、蝉が一匹、こちらを仰いでいた。

7/23/2024, 3:59:52 PM

8. 花咲いて

祖父母宅のトイレの壁には、知っている限りずっと変わらず1枚のカレンダーが貼ってある。2006年のカレンダー。自分が生まれた年だ。書道家が各月に一言書いているもので、やはり生まれた月の言葉は目に留まる。

笑顔の種蒔けば、〇〇の花が咲く

漢字二文字が思い出せない。それがこのお題を見たときのことだった。

翌日から体調を崩し、数日間の多くの時間を布団の中で過ごした。そのときに思い出したのだ。

笑顔の種蒔けば、健康の花が咲く

このお題は「花咲いて」だった。花が咲いたら種ができて、また土に蒔かれる。

私は今まで、あれは健康に重きを置いた言葉だと思っていた。

今まで、健康を目指しては適切な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠が出来ないと自分を責めてしまうこともあった。

しかし、今思い返せば、健康は花であり、すなわち過程なのだ。ゴールは笑顔や幸福なのに、それを忘れていた。

私がするべきことは、種蒔きだった。笑顔でいれば、健康は付いてくる。そしてまた笑顔がもたらされる。意外で、しかし優しいメッセージだ。

祖父母が18年も遅れたカレンダーを依然貼り続けている訳が少し分かった気がした。

7/22/2024, 2:10:18 PM

7. もしもタイムマシンがあったなら

タイムトラベルと言ったらメン・イン・ブラック3(MIB 3)を思い出す。引かないでほしいのだが、昨日アニマル・ボリスのモノマネをして遊んでいた。「ただボリスと、そう呼べ。」

映画もドラマもアニメもほぼ見ないが、好きな洋画を聞かれたら迷いなくMIBと答える。あのノリ、テンポ感がたまらない。俺みたいなバカでも存分に楽しめるのはありがたい。

MIB 3にはタイムトラベルのシーンが何回かでてくる。タイムマシンと言えば乗り物を思い浮かべる人が多いと思う。しかしそのマシンは掌に収まる程の大きさしかない。どう使うか想像つくだろうか。ぜひ映画を観て確かめてほしい。当てた人は天才。

さて、もしもタイムマシンがあったら使うのだろうか。多分自分のためには使えないな。それをやり始めたら切りがない。

しかし持っているだけでも、ああすれば良かった、こうすれば良かったと色々思い出してしまいそうだ。だから机の引き出しに閉まっておこう。物を失くす天才なので、そのうちどこに閉まったか忘れる自信がある。

時間旅行への興味が薄すぎるので今日はこれくらいで終わろうと思う。明日はMIBを見返そうかな。

1つだけ付け加えると、タイムトラベルはしたくないが、タイムマシンを使う動作だけ再現してみたい。絶対楽しいので。

7/22/2024, 1:54:45 AM

6. 今一番欲しいもの

欲しいものを聞かれても答えられない。

そして必ず
「お前は贅沢だ。小さい頃から何もかも与え過ぎた。」
と返ってくる。

その通りだと思う。
食べるものも、住むところも、着るものにも困らなかったし、勉強道具も与えてくれた。
両親と一緒に暮らせている。
遊び相手にも困らなかった。妹が生まれてから、家に一人という状況はなかった。
高校を選ぶときも好きにすればとしか言われていない。大学も。

これらを支えているのは親の労働と良心だ。その苦労を考えたこともなく、これが当たり前だと思って育ってしまったから、これから先が不安だ。

何が不安かというと、それだけこれから失っていくものが多いというのが不安だ。

父は何度も入院して手術を受けている。最近金遣いが荒いのは、もう長くないと思っているからではないか。憶測ばかりして何も聞けずにいる。

一番醜いのは、死なないでほしいという気持ちの中には、お金が無くなったら困るという最悪の理由が含まれていることだ。なんて親不孝なのか。

更に、欲しいものが浮かばないということは向上心がないことを意味している。

例えば、かっこよくなりたいという心持ちがあれば、筋肉がほしい、洒落た服がほしいなどあるはずだ。

向上心があるから、必要なものがはっきりする。

堕落しているから、何が必要か分からない。

今も指定校推薦に引っかかればいいやと堕落した生活を送っている。

だから、強いて言えば向上心が必要だ。欲しいわけではないが。

7/21/2024, 1:51:19 AM

5. 私の名前

中学まで、名前が嫌いだった。
クラスの自己紹介で毎年言っていたのが名字で読んでくださいだった。中々絡みにくいヤツだ。
成人したら改名したいとすら思っていた。

ところが高校に入って、名前嫌いが徐々に無くなってきている。皆が皆名前で呼び合う学校だった。何故かは分からない。ただ、内部生も先生もそうしているから段々そうなっていく。

最初は名前で呼ばれるのは違和感そのものだった。
しかし、クラスメート、尊敬する先生、苦楽を共にした委員、腹割って話せる友人、そして部活の後輩までもが呼ぶもんだから、俺の名前はもう俺だけのものではなくなってしまった。となると、それなりに愛着が湧く訳だ。一応成人したが、名前を変えるつもりはない。

どうやら名前は、呼んでくれる人の気持ちが注がれる容れ物に過ぎなくて、その中身が肝心みたいだ。
だから、俺も人を呼ぶときは気持ちを込めて呼ぶ。もちろん良い気持ちを。

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