乱雑無章

Open App

9. 太陽

痛い。
地面に反射した強烈な光が、ここ暫く外出していなかった俺を待ち構えていたかの如く目に突き刺さった。
引き返すという考えが頭に過ってくしゃみが出た。

諦めてチャリを走らせ、通りを南下していく。
それにしてもクソ暑い。部屋との温度差は優に10℃を超えているだろう。
夏休みも後半に入り、堕落生活がすっかり体に馴染んでいた。

受験生から勉強を抜いたら何になると思う?
ニートだ。毎日何をするでもなく、高3の夏を消費していく。

風呂も洗濯も億劫になるし、どんなに頑張って飯を作っても味気ない。友達から遊びの誘いがあったのは覚えているが、LINEを送れない。元々ゴミ部屋と呼ばれていた部屋はますます散らかり、もう足の踏み場もない。

洗濯と食事だけは家族の分もあるので辛うじて耐えていたが、他は全く手付かず。

収拾がつかなくなって、外に逃げ出した昼下り。
追い風が背中を押す。

着実に家から離れている筈なのに、頭の中は不安で埋め尽くされていく。
帰り道のことを考える。向かい風と後悔。

それらからも逃げようとして漕ぐ脚に力を入れる。
まあ、どうにでもなるし。

知らない道を進んでいる内に日が傾いてきた。頭は痛みで満たされ脚は感覚が薄まっていて、やけに幸せな気がした。サイクリングも悪いものじゃないな。

ふと、このまま進み続けたら死ぬ気がした。水も飲みたいし腹が減った。燃料切れってやつだ。適当なスーパーかコンビニでも探そう。
待て、手ぶらだ。スマホも財布もない。全く衝動的な外出である。
しかし家には帰りたくない。
これからどうしよう。どうにもならないのか。

ここまで遠くに来ても選ぶことからは逃れられないらしい。都合の良い体はいきなり重くなる。視界が狭まり、バランスを保てない。
流れに身を任せるのが一番楽な気がして意識を手放す。こんな逃げ方があるとは思わなかった。



息苦しさで意識が戻ると、布団の上にいるらしく背中には汗で湿ったTシャツがぺとついている。扇風機の音が耳障りで目を開く。寝室には障子から光が取り込まれている。慌ててスマホを見る。17:48。危ねえ、朝かと思った。
昼寝は目覚める度に朝ではないかと焦ってしまうので心臓に悪い。

洗濯物をこまないと。それから夕飯の準備だ。
仕方なく起き上がると視界は暗転し、それでも歩いていると視界の回復と同時に耳鳴りがする。心臓がやけに忙しそうに動いていて虚しくなる。

今日も無駄な一日だった。
明日こそ、三食食べて運動して勉強しよう。
思ってもないことを頭の中で唱えながらベランダに向かう。
サンダルに足を通そうと下を見ると、蝉が一匹、こちらを仰いでいた。

8/6/2024, 3:21:29 PM