59. またいつか
同級生として、同じクラスとして、あるいは同じ部活や委員会の後輩・先輩として関わることでしか生まれない関係性や空気感がある。卒業してから会うこともあるし、やっぱりあいつはあいつだなあとしみじみする一方で、時は戻せないのだと痛感する。しばらく会ってないのだから当然だとは承知しているが、どんなに盛り上がってもあの頃とはどこか違うと感じる。それがすごく寂しい。やっておきたかったことが沢山ある。しかし、今のこの関係性も数年後にはまた再現不可能になっていることを考えれば、今会えている幸せを存分に楽しむのが利口なはずだ。自分の場合、生きていて良かったと思う瞬間は、どれもこれも人との繋がりから生みだされたものの中に見出されている。そう気付かされることが度々ある。一人じゃ何にもならない、何者でもない、こんなちっぽけな人間に何かを見出してくれる人がいる。その人たちに支えられて、明日を迎える。どんなに朝が恐ろしくてもその一つひとつを越えられたのは、そんな人たちがいたから、いるからだ。みんなに何が返せるのだろう。何もないけれど、何もないなりに、これからもこの縁を大切にしたい。この言葉を受け取ってくれたあなたとの素敵なご縁も。
58. special day
今日は俺にとって何でもない一日だった。
でも、誰かにとっては上手く行った日で、誰かにとっては失敗して落ち込んだ日で、誰かにとっては挑戦の一日で、誰かにとっては休息の一日で、誰かにとっては温かい一日で、誰かにとっては恐ろしい一日で、誰かにとっては最初の一日で、誰かにとっては最後の一日だっただろう。
来る日も来る日も、誰かにとっては特別な日になりうる。
そう思う度、思い知らされるのだ。
俺は、自分が良ければそれで良い人間なんだと。
ああ、今日も一日無事で良かったよ!
57. 夏
記憶は定かでないが、初恋といえば初恋だったのか。あの人の夢を見た。夏の暑さは人を狂わせてしまうらしい。
存在しない捏造の空間で、捏造されたあなたと話したとき、私の口角は不気味なくらいに吊り上がっていた。あれだけ久しぶりに会ったのに、私の話はよく聞いていたよなんていうから、序盤から夢だとわかっていた。それでも話を止めようとは思えなかった。もう忘れたと思っていた感情が押し寄せて鳥肌が立つ。こんなに浮かれてしまって、どれだけ見苦しいだろうか。
都合の良すぎる夢はすぐに閉じてしまうのか、あるいは続きを見ても忘却してしまうのか、私の記憶はそこで途切れた。だのに、そのイメージは心の感触として今も後を引いている。あの日からは何をするにも身が入らない。こんなと、早く忘れないといけない。なのにまたウトウトと夢に誘われていく。ずっと前に沈めたはずの記憶は夜も止まない蝉の声によって目を覚ますのだぅた。
56. 夢へ!
夢見心地という言葉もあるが、夢はそんなにいいものだろうか。夢の記憶を引き継いだまま目が覚めたり、日中に突然思い出されたりするのを未だに恐れ、嫌悪してしまう。そういう日は大抵上手く行かない。
眠りに落ちるときの浮遊感が癖になるくらいだから、眠ることは嫌いではない。充分に寝た日は演奏も勉強も家事も上手くいくことが多いが、一つには夢を見ることで脳がリフレッシュされたことも関係しているのかもしれない。
それはそれとしても、夢の記憶を現実世界に引き継がないでほしい。例えば、ある時母は誰かを殺して私に隠蔽させた。しかしいつもと何も変わらない様子で生活を続けるので、私もいつも通りの生活に戻れると思ったが 、もう口応えも喧嘩もできない。冗談を言うのにも冷や汗をかかなければならず、この先ずっと窮屈できつく糸の張った生活が続くことに気づき絶望する。ともすれば、またある時には殺人鬼に首を切られそうになる母を目の前に恐怖で声も出ない。母一人をとっても私は散々夢に振り回されてる。
夢か現か、では居心地が悪い。夢は夢、現は現。その境界が曖昧にぼやけるとなると、臆病な私はハラハラしてしまう。夢を喜んて受け入れられる日は果たして来るのだろうか。
55. 好きだよ
こんなお題とは全く関係ないのだが、父親は今日予後1年と数ヶ月と言われたらしい。状態は悪くないし、治療薬も今の所効いているので、今凄く焦る必要はないが、それでも腫瘍の進行次第ではいつ何が起きても不思議ではない。今週大学に入学したばかりで、妹も来週高校の入学を控えている。そんなときに聞かされると心配な面もある。これまでよりもバイトと貯金が重要になってくるだろう。
父は早期の段階でがん治療を始め、数年間で数回手術を受けていたが、切除不能な腫瘍があるらしい。切除不能の腫瘍がある場合はシステマティックに予後最長3年と分類され、何故かそれから一年と少し経った今日初めて余命を伝えられたので、予後一年と数ヶ月らしい。ただ、今の所抗がん剤が効いて縮小しているらしい。
治療のため定期的に病院に通っているからとモニタリング面では安心していただけに、いきなり余命を伝えられると動揺したり、他のことに目を逸らしたりしてしまうが、こうして書き出してみると前より俯瞰して状況を把握できている気がする。
寝ている間に気づいたら死んでたのが一番楽でいいな。
会社で死んだら手続き諸々やってくれるはずだ。
父はそんなことを口にしていた。生きとし生けるもの皆いつかは死んでしまうのだから、あまりに惜しむのも彼には気の毒かもしれない。それでも長生きしてほしいと思う。そして、これからは毎晩ちゃんとおやすみを言いたい。そんなことを思う一日だった。