57. 夏
記憶は定かでないが、初恋といえば初恋だったのか。あの人の夢を見た。夏の暑さは人を狂わせてしまうらしい。
存在しない捏造の空間で、捏造されたあなたと話したとき、私の口角は不気味なくらいに吊り上がっていた。あれだけ久しぶりに会ったのに、私の話はよく聞いていたよなんていうから、序盤から夢だとわかっていた。それでも話を止めようとは思えなかった。もう忘れたと思っていた感情が押し寄せて鳥肌が立つ。こんなに浮かれてしまって、どれだけ見苦しいだろうか。
都合の良すぎる夢はすぐに閉じてしまうのか、あるいは続きを見ても忘却してしまうのか、私の記憶はそこで途切れた。だのに、そのイメージは心の感触として今も後を引いている。あの日からは何をするにも身が入らない。こんなと、早く忘れないといけない。なのにまたウトウトと夢に誘われていく。ずっと前に沈めたはずの記憶は夜も止まない蝉の声によって目を覚ますのだぅた。
7/14/2025, 3:39:43 PM