ゴトゴトと音を立ててベルトが流れる。
運ばれているのは大小様々なカケラだ。
カケラたちは大きく口を開けた検査機へ入っていく。
検査機を抜けると、ベルトは二手に分かれている。
検査基準を満たしたものと、そうでないものだ。
前者は汚れの少ないもの。温かい水溶液に付けて浄化し、リサイクルする。後者は汚れが酷いもの。炉にかけて溶解し、材料としてリサイクルする。
検査機の動作確認を終えた俺は、落第のベルトにかすかに汚れたカケラを見つけた。この程度の汚れで落第とは、可哀想なやつだ。合格と不合格とか、採用と不採用とか、常に選別が付いてまわる世の中。死んだ後ですら、天国と地獄に選別されるとかしないとか。
俺はカケラをベルトに戻した。どちらかのベルトに戻すしかないのだ。どちらかといえば、もちろん落第のベルトだ。
俺はカケラに興味を失い、いつもの仕事に戻る。
君と肩を並べて見る月は綺麗だった。
金色の満月。蠱惑的な光。
じっと見つめていると、月は徐々に大きくなって、僕を飲み込んでしまう。琥珀色の海。僕は静かに溺れていく。どここらか君の声がする。綺麗だ、とても。僕の八重歯が伸び、尻尾が生え、爪が鋭くなっている。ウルフになった僕は、君の手をとって月を渡る。遠く、遠く、誰も手の届かないところへ。
「__ねえ」
僕は我に帰る。
君が月のように笑っている。「何考えてるの?」
「月が綺麗だ」
「月並みね」
「月と肩を並べられたら僕は幸せだよ」
君は上機嫌に脚をぷらぷらして、
「月の裏側、見たことある?」
「ないよ」
「見てみたい?」
真ん丸な目が僕を覗き込んでいる。
僕は目を逸らして月を見上げる。
君がくすくすと笑っている。
月夜が僕を揶揄っている。
雨に打たれていた。
溢れ出る涙が私の全てだった。
全身を濡らし、私という輪郭を保っている涙。
途切れてしまえば、私は私でなくなる気がして、
どうしようもなく溢れてくる。
乾いて砕け散るくらいなら、
このまま心ごと溶けて雨になってしまえばいい。
あの人のもとへ降る雨に。
だからどうかお願い。
いつまでも降り止まないで、雨。
『不安なのは希望があるから。
不安なのは努力したから。
不安に思うことを恐れないで。』
「……先生、何してるの?」
「あら、見つかってしまいましたか」
夜の帳が下りた森の湖面に三日月が浮かんでいた。
私は愛弟子に微笑んで、水面に記した文字を示した。
「ちょっとした魔法の練習よ」
「これ、時空操作系の魔法。未来を観てたの?」
「いいえ。過去に残してたの」
「……そうなんだ」
「眠れませんか?」
大人びてきた彼女は肯定も否定もしなかった。緊張しているのだ。明日は見習いたちの卒業試験。年に一度しか開催されない、魔法使いの登竜門だった。
「この場所、私の特訓場でもあったのよ。あなたと一緒。卒業試験の前にここへ来てね、泣いちゃったの。不安で仕方なくて。またダメだったらどうしようって。怖くて仕方がなかった。それで、ここで未来を見ようとしたわ」
「それって……」
「そう。ほら、あなたにも見えるでしょう?」
私はそっと彼女の頭に触れる。
水面を見つめるその姿に、若かりし頃の私が重なった。
力が欲しかった。
誰からも一目置かれ、畏敬される騎士になりたかった。
たとえ、闇に堕ちてでも。
だから俺は闇を眷属に従えた。人の心を喰らう魔物。一度取り込めば後戻りできないことなど全く意に介さなかった。俺なら使いこなせるという自負があった。
強烈な一撃を喰らって臓腑に熱が迸る。
地面に強かに打ち付けられると、激痛に意識が飛びかけた。もう顔を上げることすらできなかった。
「二度と俺の前に立つな」
遠ざかる足音。俺はなすすべなく夜の空を見ていた。
埋まらない力の差。歴然たる実力差。まるで敵わない。勝てる気がしない。
俺は、間違っていたのか。
そんな疑問がよぎって体が砕けそうになる。
視線を下げると、闇に侵蝕された右半身があった。
あの時の自分が下した、決意の呪縛。
じわじわと蝕む呪いがすぐそこまで来ている。
もう逃げることはできない。
俺は血の涙を流し、やがて意識を失った。