つぶて

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5/8/2023, 12:54:20 PM

お祝いLINEにありがとうを返した私は、
ぽいとスマホを放って布団にダイブする。

今年も開催するらしい。
仰向けになって目を閉じる。
両手は緩く組んで胸元へ。
大きく深呼吸をしてみれば。
来た来た。一年後の私。
一つ年上だから、私はいつも私先輩と呼んでいる。

「…………だ…………ら! ………でね、…………!」
身振り手振りで必死に喋る私先輩。
私も必死に聞き取ろうとするけれど、
毎年のことながら、その声はほとんど聞こえない。

「…………って! ………して…………の!」
「わかりませーん!」
「…………る! …………は………!」
「よく寝る?」
「ちがーう! …………!」

わいわい、がやがや。
やっぱり、よくわからないまま終了。

野菜を食べろ、オシャレをしろ、書く習慣をつけろ、
好きな人を見つけろ、くらいかな?
私先輩の言葉を直感的に要約する。
見込み違いじゃなければいいけれど。
とりあえず、これで頑張ってみますか。

さて。
私は私後輩と対面する。

「フラれたくらいでくじけるなあーー!!」
「わかりませーん!」
「あんたは視野がせまーい!」
「よく寝る?」
「ちがーう! 運動しろー!」


そんな誕生日。

5/7/2023, 3:05:07 PM

「初恋の日だって」
「俺の初恋の日、わかる?」
「え、うんとね……」
所在なさげに考えこむ君を、
俺は小さく笑って見守る。

君はいつまで経っても謙虚だ。
ホントに私でいいの?
俺が告白した時も、最初に俺のことを心配していた。

一緒に過ごすうちに、
俺が君に心から惚れていること、
君には君の良さがたくさんあること、
いろんなことを少しずつ受け入れてくれた。

だけど、こうした時にふと自信を持てない所がある。
「私の知ってる日?」
「もちろん」
「えっとね……」

眉を寄せて一生懸命な彼女が愛おしい。
大丈夫だよ。
何日でも正解なんだから。
君と会った日。君と話した日。君が笑った日。
気付けば恋をしていた。
だから365日、いつだって初恋の日だ。

そう誓ってみせるから。

5/7/2023, 2:24:43 AM

人類の蛮行、いよいよ目に余り。
神の法廷にてその滅亡を恃む声が上がった。
短気な神々は檄を飛ばし、
穏健な神々は異議を唱える。
決議は三日三晩に及んだ。
「では人類に直接問うというのはどうだろう」
その提案とは次の通りだ。

1.全人類に対し、24時間後に必ず滅亡すると知らせる。
2.滅亡の1時間前に全人類に滅亡の賛否を問う。
3.多数決により滅亡の可否を決定する。

滅亡派の神々は笑う。
「愚かな人間どもは我を忘れ、滅亡に身を堕とす」
存続派の神々は固唾を飲む。
「人間は聡明な生き物だ。必ずや存続を願うだろう」

その日、地球上では大混乱が発生した。
犯罪の横行。阿鼻叫喚の嵐。
そして選択の時。
「存続か。それとも滅亡か」
何を今更、と恋人を手にかけた女は言う。
滅亡だ、と泥酔した男は叫ぶ。

勝負は決した。
人類の大多数が存続を選んだ。
「人類も捨てたものじゃないでしょう?」
穏健な神々は莞爾として言った。

5/6/2023, 7:03:44 AM

バス停に佇む君は、澄ました顔で空を眺めていた。
さあさあと雨が降る中、
私の足音が聞こえたのだろう。
振り返った君は、少し意外そうな表情を浮かべた。
「雨だからバスにしたの」
「あ、一緒」
君は合点がいった様子で目元を緩める。

部活とか、授業のこととか。
そんな他愛のない会話が楽しかった。
穏やかな君は悠然としていて、
隣の席で傘を握りしめる私とは正反対だった。

また明日。学校でね。
うん。

君はひらりと手を振り、私も手を振り返す。
嬉しさと寂しさが混じり合って、
私はわけもなく家路を急いだんだっけ。


目覚ましが鳴る。
身を起こし、窓の外を確認する。

今日も私は、雨を願う。

5/5/2023, 5:17:23 AM

瞼の裏に残る空が、
懐かしい感情とともに移ろう。

初めて獲物を狩ったときの眩しい空。
収穫を前にした秋晴れの空。
土地を争って怪我を負い見つめた空。
恋人を想って詠んだ茜色の空。
戦に敗れ途方に暮れて見上げた空。
貧困に喘いで救いを求めた空。
ただ戦争を生き抜くために仰ぎ見た空。
つまらない授業を抜け出して眺めた空。
膨らんだ腹部に手を当てて病室から見ていた空。

この空が呼び起こすのは、
僕の中に刻み込まれた先祖たちの物語。
連綿と続く僕らの命は、
今も昔も変わらないこの空を見上げてきた。

空の記憶がないまぜになった僕の心は穏やかだ。
じきに、また忙しくなる。
それでも構わない。
僕はきっと、その先を生きていくだろう。

微睡みに落ちていく。


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