きっと明日も当たり前に

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3/5/2025, 5:14:09 PM

世界には、数多くの謎が存在する。
宇宙の始まりの謎であったり、古代の遺跡であったり。はたまた、政治の陰謀論であったり、歓楽街に潜む闇の世界であったり…。
その多くは、「時間と空間」に関わるものが多い。
しかし、僕の謎は違う。
僕の謎は、『人の気持ち』だ。
時間も空間も立ち入ることができない、人が持つ『絶対不可侵』のその領域に、僕の謎は存在している。

かつてはカウンセラーとして人々に接し、今はバーテンダーとしてお客の人々を観察する僕には、友人曰く特別な能力が備わっているらしい。

人心掌握の素養。
いわゆるメンタリストとしての素質だ。

確かに僕には、話し相手の考え、相手が僕に求める答え、そして相手が受け入れやすい口当たりの良い意見などが、まるで事前に答えを盗み見たテストかのように手に取ってわかる。
相手の目線、声のトーン、話のスピード、口から放たれるワードセンス、仕草、服装、爪の手入れ具合 etc etc。
僕から言わせれば、目の前には見たくもないヒントが数多く並べられ、逆にそれを無視して先に進む方が労力の無駄使いまであるが、その景色を見ることができる人は、意外にもそう多くないようだった。
その気になれば、悪用など容易いこの能力。
僕が悪事を行わない理由は、単純にも生前の父から言われた「人生、小賢しい真似だけはするな。」という言葉があるからだ。
それを良いか悪いか真面目に受け取り、日々、自分をすり減らしながら相手のメンタルを支えることに尽力するのが、僕の日常だ。
「え?そんな能力があるなら疲れないんじゃない?」
残酷にも、そんな言葉を何度も友人からかけられたことがある。
…確かに、側から見るとそんなふうにも見えるのかもしれない。
すでに答えがわかっているテストの解答をなぞる。
例えやすいのでこの言い回しをよく使ってはいるが、その実、僕が望んでもいない人の心の内を覗き見ながら会話をする状態は、僕にだけ大量のゴミと蟲が見えている廊下を、足の踏み場を探しながら部屋の主と一緒に歩くようなものなのである。
どんなに元気で活動的な人の部屋も、どんなに病んで消極的な人の部屋も。
人の心ほど、混乱し、破綻しているものはない。
みな自分基準で見たくない部分に蓋をして、残った空間に妥協できる生活スペースを確保しているが、”お客さん”である僕には、本人すら見ようとしていない部屋の全てが視えてしまう。部屋の隅に隠された、見たくもないものまで全て見えてしまう。そんな部屋の中で、部屋の主と会話をする苦しみは、同業者にしかわかってもらえないだろう。
『無知は幸福』
そんな映画のキャラクターのセリフを実感するような、消耗戦を繰り広げる日々が、これからも続くのだろうと思っていた。

「ずっと前から、好きでしたよ?」

文字通り、天地がひっくり返ったのは、そんな一言からだった。
裸の王様は…、自分に向けられた矢印に気がついていなかったのは、僕だったなんて。
自意識過剰と切り捨てていた記憶が、…今度は自分の部屋の蓋が取り払われる。
困ったことに僕にはメンタリストの素養があったと同時に、自分に向いた矢印にだけは絶対に気が付かない「鈍感系ハーレム主人公」としての素質もあったようだ。
意外だ…、という顔をした僕に、友人は追撃した。
「お前は、本当はわかっていたはずだ。でも、卑怯にも自分が傷つきたくないから、相手が動くのを待っていただけだ。そんなんだから、誰もお前にその事実を言わなかったんだ」


気がつけば、寝落ちしていた。
布団から体を起こして、隣に眠る友人の寝顔を見る。
今となっては、人の心が全く見えない…。
でも、そんな「question」の世界の夜明けは、何故だか僕には、とても清々しいものだった。

3/3/2025, 7:24:57 PM

桜が舞い散るこの季節、ひらりひらりという擬音語が頭の中で反芻される。
卒業であり、入学であり、入社であり異動であり。
様々な変化がもたらされるこの季節に、「散る」という言葉は似つかわしくない。
しかし、個人的にはこの言葉なピッタリであり、思いを寄せながらも卑怯にも自分の気持ちを打ち明けられなかった自分が、ひらりひらりと散りながらまたいつもの家に戻っている様子を表すには、まさに「散る」という言葉がうってつけである。
「自分を愛することができない人は、他人の想いにも気づけませんよ」
揺れる気持ち。
痛いことを言われるのにも慣れた。・・・と言えればいいのだろうが、結局、毎度致命傷を受けている。
これが、今まで自分の気持ちや人の気持ちをひらりひらりと交わし続けてきた代償なのだろう。
来年の桜舞い散るこの季節、いったい僕は、何を思っているのだろうか。

2/26/2025, 5:42:06 PM

それは、太古の昔より存在すると言われてきた。
万物の事象を記録し、宇宙誕生以来の全てを記す超常的な世界の記憶。
『アカシャの年代記』とも呼ばれるそれは、まさしくここに保管されていた。
門番として鍵を持つは、辺境宇宙、天の川銀河に住む種族「アルティラン」の英霊。宇宙の歴史において、アカシックレコードにアクセスすることに成功した数少ない賢者。預言者として宇宙の歴史に名を残すこの英霊は、かつてかの地で占星術や医学にも精通した偉人として称されていた。
しかし、この英霊の加護もいまや「0」に上書きれれ、宇宙開闢以来初めてアカシックレコードは消失の危機を迎えている。
時空の誕生の秘密すら記録されているアカシックレコードは、現存する『神の奇跡』の中でも最後の秘宝。そのため、いかなる犠牲を払っても失うわけにはいかない。
世界最後の砦 ”宇宙の中心”で「0」に対する最後の防衛戦を張る宇宙連合艦隊は、自らの敗北を予期して最後の賭けに挑んだ。
アカシックレコードを守護する2体の悪魔を創造し、残された時空泡にいる「アルティラン」に、最後の希望を託すのだ。
アルティランは未だレベル3の原始科学しか扱えない未発達種族ではあるが、最早、マルチバースに存在するほぼ全ての時空泡を「0」に侵食された宇宙連合にとって、他に道は存在しなかった。
アルティランがアカシックレコードの最後の封印を解き、「悪魔」の知を用いて『ヴァン・ブリュレの剣』を取り出すことが出来れば、この多重時空泡に寄生する「0」をパージさせ、宇宙の未来を救うことができる。
最終防衛戦を突破され、”宇宙の中心”に「0」が押し寄せようかと言うまさにその時、宇宙創生にも匹敵する激しい雷鳴が、全ての時空泡に響き渡った・・・。


転送陣を敷き、最後の「術」を完成させる直前、マスターは私と弟に言った。
「宇宙の未来を、頼んだぞ」と。

その後のことは、正直あまりよく覚えていない。
宇宙創生以来に聞く激しい雷鳴と共に、視界は全て失われた。
マルチ・アクションを駆使したペンローズ・ブリッジによって、天の川銀河までのゲートを作ることには失敗したらしい。
「剣」を見失い、弟のラプラスの姿も激しい時空流に飲まれたところで私は意識を失い、気がついてみれば、ただただ一面砂漠の荒野が広がるこの世界に倒れ込んでいた。
目を覚ましたきっかけは、近くで繰り広げられていた人型種族とワーム種族の争いの音だった。
マスターと同じ人型種族に親しみを感じ、この世界のヒントを求めてワームを攻撃し撃退する。電磁気力やローレンツ変換すらも支配下に置く私の力を持ってすれば、この程度の事は訳ない。
高電圧に恐れをなしたワームは自ずと去っていったが、雷撃を纏う私の姿をみてローカルの人型種族はなにかを勘違いしたらしい。
『あんた、・・・もしかして天使か?』
『・・・いいえ』
迫り来る滅亡から宇宙の未来を救う試練の旅が、
『私はマクスウェルの”悪魔”。「剣」を探している』
この無名の星から始まろうとしていた。

2/23/2025, 5:06:55 PM

太古の昔より語り継がれる「魔法」と呼ばれる存在は、大きく分けて3つのタイプに分類することができる。
1つ目は、人々の持つ「技術」が神格化されたものである。その時代におけるローカルに閉じられたコミュニティの中で、再現性の低い貴重なサンプル技術が、後世に「魔法」として語り継がれているケースである。
2つ目は、その時代においては解明されていない「科学」が魔法の正体であるタイプだ。我々の存在する宇宙には基本原理から構成される一定の法則が存在している。再現性が高くとも、その基本原理や法則が解明されていない「科学」は、後世まで魔法として語り継がれたに違いない。
最後は、とても再現性の低い「奇跡」が神格化されたものである。複数の複雑な条件が絡み合ってのみ実現される「奇跡」と呼ばれる現象は、多くの人々にとって魔法と認識され、後世まで語り継がれたに違いない。
しかし、
本当に「魔法」はこの3つだけなのだろうか。
人々から秘匿され、脈々と歴史の裏側で語り継がれる本当の「魔法」が存在したならば、我々の生活は宇宙人に遭遇するよりも大きく変化するだろう。。。
いやあるいは、太古の昔に宇宙人によって地球にもたらされた「奇跡のような科学技術」こそが、人類が手にした本当の「魔法」であったのかも知れない・・・。

9/30/2024, 1:29:02 PM

きっと明日も当たり前のように、みんな起きるのだろう。
何の疑問も持たずに陽が昇るように、何の疑問も持たずに生きるのだろう。
みんな何の疑問も持たずに、人に助けてもらうのだろう。
何の疑問も持たずに、自分にとって気持ちい生き方を人に押し付けるのだろう。
きっと彼らが疑問を持つことはないのだろう。
押し付けられた人が、何を感じているのかを。
きっと彼らが考えることはないのだろう。
押し付けの先には、いつだって自分を犠牲にして後始末をしている人がいることを。
みんな当たり前に自分を優先し、みんな当たり前にゴミ処理を他人に委ねる。
ゴミの行く末はどこなのだろう。ゴミの最後は、どんな形なんだろう。
決して自分で見ることはできないが、ゴミの最後の形は「涙」なのではないかと勝手に考えた。
流れ伝う暖かい水が、きっとゴミの行き着く最後なのだろうと、もう二度と昇ることの無い日を背に向けて実感した。

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