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それは、太古の昔より存在すると言われてきた。
万物の事象を記録し、宇宙誕生以来の全てを記す超常的な世界の記憶。
『アカシャの年代記』とも呼ばれるそれは、まさしくここに保管されていた。
門番として鍵を持つは、辺境宇宙、天の川銀河に住む種族「アルティラン」の英霊。宇宙の歴史において、アカシックレコードにアクセスすることに成功した数少ない賢者。預言者として宇宙の歴史に名を残すこの英霊は、かつてかの地で占星術や医学にも精通した偉人として称されていた。
しかし、この英霊の加護もいまや「0」に上書きれれ、宇宙開闢以来初めてアカシックレコードは消失の危機を迎えている。
時空の誕生の秘密すら記録されているアカシックレコードは、現存する『神の奇跡』の中でも最後の秘宝。そのため、いかなる犠牲を払っても失うわけにはいかない。
世界最後の砦 ”宇宙の中心”で「0」に対する最後の防衛戦を張る宇宙連合艦隊は、自らの敗北を予期して最後の賭けに挑んだ。
アカシックレコードを守護する2体の悪魔を創造し、残された時空泡にいる「アルティラン」に、最後の希望を託すのだ。
アルティランは未だレベル3の原始科学しか扱えない未発達種族ではあるが、最早、マルチバースに存在するほぼ全ての時空泡を「0」に侵食された宇宙連合にとって、他に道は存在しなかった。
アルティランがアカシックレコードの最後の封印を解き、「悪魔」の知を用いて『ヴァン・ブリュレの剣』を取り出すことが出来れば、この多重時空泡に寄生する「0」をパージさせ、宇宙の未来を救うことができる。
最終防衛戦を突破され、”宇宙の中心”に「0」が押し寄せようかと言うまさにその時、宇宙創生にも匹敵する激しい雷鳴が、全ての時空泡に響き渡った・・・。


転送陣を敷き、最後の「術」を完成させる直前、マスターは私と弟に言った。
「宇宙の未来を、頼んだぞ」と。

その後のことは、正直あまりよく覚えていない。
宇宙創生以来に聞く激しい雷鳴と共に、視界は全て失われた。
マルチ・アクションを駆使したペンローズ・ブリッジによって、天の川銀河までのゲートを作ることには失敗したらしい。
「剣」を見失い、弟のラプラスの姿も激しい時空流に飲まれたところで私は意識を失い、気がついてみれば、ただただ一面砂漠の荒野が広がるこの世界に倒れ込んでいた。
目を覚ましたきっかけは、近くで繰り広げられていた人型種族とワーム種族の争いの音だった。
マスターと同じ人型種族に親しみを感じ、この世界のヒントを求めてワームを攻撃し撃退する。電磁気力やローレンツ変換すらも支配下に置く私の力を持ってすれば、この程度の事は訳ない。
高電圧に恐れをなしたワームは自ずと去っていったが、雷撃を纏う私の姿をみてローカルの人型種族はなにかを勘違いしたらしい。
『あんた、・・・もしかして天使か?』
『・・・いいえ』
迫り来る滅亡から宇宙の未来を救う試練の旅が、
『私はマクスウェルの”悪魔”。「剣」を探している』
この無名の星から始まろうとしていた。

2/26/2025, 5:42:06 PM