雨音

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9/29/2023, 10:35:30 AM

『静寂に包まれた部屋』  No.133


ふと目が醒めると、何やら白くぼやけた空間がそこにあった。目を擦る。ぼやけがとれないぞと思ったら、それもそのはず。サラのまわりは、霧に包まれたかのように白い壁で囲ってあった。
一般的な六畳ほどの部屋で、全てが真っ白だった。十字の仕切りが取り付けられた窓もあったが、外は真っ白で、風も吹いていないのに暑くも寒くも感じない気温だった。
中央には小さな机と、何やらメモ帳、鉛筆もあったが、全てが真っ白。小瓶に入った植物までもが白かった。

なにも匂いがしないし、明るいのか暗いのかも分からない。静寂に包まれたこの空間が、ただただここにあるだけだった。

あぁ、とサラは思った。
ホントは、わたしはこんな場所に来たかったのだ、と。

学生な私は、多分 疲れていた。
何もしたくなくて
歩きたくなくて

ただただ、静かな場所に一人になりたかった

これは夢なのだろうか…。
でも、都合の良い夢だ。存分に味わさせてもらおう。

壁と同化して気付かなかったが、ベッドがあった。
横になる。
とたん、ゆるやかに眠りについた。




目が覚めたら、いつもの部屋に帰っていた。
…なんだったんだろ。
でも、肩の重さが少し、軽くなっていた。

9/25/2023, 5:46:56 AM

『形のないもの』  No.132


わからない

わからない、けど

キミと目があうと

形のない何かが溢れる

9/23/2023, 10:28:48 AM



『ジャングルジム』   No.131



この町に来て数十年。




最初はそこまで長く居座るつもりもなく越してきたマンションを出て、今では四人家族の一軒家まで居場所がある。本当に出会いで人生とは変わるものだ。

蒸し暑さが重くじめじめとした九月前の今日は、公園にもあまり人が居なかった。昔ならちいさな子供らが公園内を元気に走り回っていたのだが、ここ最近は昔ほど見かけない。やはり家でゲームとやらをする時代なのか。時代の変化にまたしみじみ来つつ、あるものに目がいった。
かつて鮮やかな蛍光ブルーが公園の目印になっていたはずの場所には、ボロボロの遊具だけが残されていた。よくみたら、それがジャングルジムであることに気がついた。いつの間にこんなにも褪せてしまったのか。ここに越してきたときの新鮮な色を失い、これもまた今にもちぎれそうなほどに朽ちた黄と黒色のロープでぐるぐると巻かれ、赤い文字で「しようきんし」と平仮名で書かれていた。使用禁止…そうなるのも無理はない。取っ手の部分は錆びて握るだけでも折れそうだ。(実際、手前側の取っ手が1本、大きく斜めに折れ曲がっていた。)

子供の頃、私もよく遊んだものだ。
そういえば、あの時の公園も今はもう土地になったと聞いた気がする…

──時代だなぁ。

9/8/2023, 10:17:19 AM

『胸の鼓動』  No.130



「ここ、もう少し早く小刻みにできる?」

私の目の前の譜面台に指を伸ばす先輩の手が、肩に当たった。

「…あ、はい!」
駄目だ、ここで口角が上がったら…
ごまかすようにしてすぐトランペットのマウスピースを口にかぶせた。こっちを真剣に見て、アドバイスして下さる先輩はいつも、輝かしかった。

必死に吹いたから、顔が赤くなったんだ。
…多分。
息切れしたからだ、
さっきから胸の鼓動が激しいのは。

9/7/2023, 12:39:32 PM

『踊るように』  No.129


ふわふわ舞って

かたこと音を立てて

どこか懐かしいオルゴールのメロディを奏でて


薄暗いアンティークショップに並ぶ陶器人形


いつか、愛してくれるかしら

また、ぜんまいを巻いてくれる人に出会えるかしら

すり減った顔と、前の主人にとてもあそんでもらったことが分かるシミを抱えて


今日も
踊るように、店のドアのベルが鳴るのを待っている

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