椋 ーmukuー

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9/20/2025, 8:32:21 AM

ん、さむっ……窓開けっ放しにしてたんだっけか。

夏から秋へ。緩やかに移ろうようなものではなく、それは突然訪れる。昨日までが夏で今日からが秋。

まだ吐く息は白く濁りやしないけど、少しだけ外の世界を歩きたくなった。
半袖に薄めのパーカーを羽織って家の中から1歩だけ踏み出してみる。早朝だということもあって冷え込んだ空気が全身を震わせた。

歩き出してみると案外昨日とは何ら変わり映えのない世界が流れ続けていた。木々はまだ緑を残したままで雑草は静かに夏を主張している。

少し離れた農道はもう、黄金色に染まった稲が頭を垂れていた。トンボがじゃれ合うように周りを飛び交って少し踏み外した右足は朝露に濡れてしまった。

この寒空の下で過ぎていく景色は温かみのある色彩へ移ろうのだろうか。紅葉した葉々が落ち、果実が実り、命の終わりを迎える冬へと備えていくのだろうか。壮大な自然の摂理の何万分の一にも満たないちっぽけな自分の存在がたった数分だけ、感傷的になったところで日が少しずつ昇っていくだけだった。

何日ぶりかの朝日を浴びて、秋が来るのが少しだけ楽しみになった。

題材「秋色」

9/7/2025, 6:40:44 AM

開門されたばかりの校門をくぐって長い長い一本道をひとりで歩いた。

まだ日は登りきっていなくて少し薄暗い教室がいつも見慣れた光景だった。誰もいない教室に入れるのは始発で来ている私の特権。人が集まり始めると私は馴染めなくなるから。

私とこの教室を繋いでいたものは人が入るにつれて少しずつ引き剥がされていくのをひしひしと感じた。明らかに分離していく。自分の意思なんて関係なしに。

誰の気配も漂わない孤独の空間は大勢に紛れ込んだ孤独の空間よりもよっぽどマシだ。存在しないように扱われるより独りぽっちで存在している方が楽だから。

毎朝吐きそうなのを堪えながら重い足取りで向かう学校に意味なんてあるのだろうか。私に向けられた問いに私は一生答えられないままだった。

題材「誰もいない教室」

8/29/2025, 11:00:58 AM

見るな、この酷い有り様を。こっちを見るな…
穢れた。汚れた。見れば見るほど嫌になる。

コンプレックスだった体型をあれほど努力して改善してきたのに…また増えてる。また戻ってる。また…また…
あれ。なんで。あんなに頑張ったじゃん。時間費やして勉強したのに。ひ、一桁なんて…ありえない…

また体重が増える。また点数が下がる。また順位が下がる。また胃痛がする。また頭痛がする。また吐き気がする。また馬鹿にされる。また笑われる。また軽蔑される。また逃げたくなる。また笑えなくなる。また生きづらくなる。また消えたくなる。

もう立ち直れなくなる。

怒り。憎しみ。恨み。苦しみ。悲しみ。悔しさ。やるせなさ。混ざって溶けて溜まる。何をしても無気力で何をしても苦しくなる。自分は出来損ないでいつも誰かの足を引っ張ってる。

白い目で見られて後ろ指さされて逃げる場所も隠れる場所も帰る場所さえも失った今、自分は何を考えているかすらも分からない。真っ白な空間が溜まり続ける感情に塗り潰されて傷だらけの自分はそれでも生きる価値を探して歩いてる。

もう消えたいって答えが出ているのに

題材「心の中の風景は」

8/26/2025, 9:28:39 AM

急に雲が立ち込めて強い雨が降った。自分の心を代弁してくれるかのようにそれはもう激しく振り続けた。

明日の学校やテストを思うと逃げたくなって消えたくなってひたすら涙が流れた。別に悲しい訳でもないけど悔しい訳でもないけど涙が出た。泣きたい訳じゃないのに出てくる液体がうざったらしくてでもずっと泣いていた。終わらないでほしい…始まらないでほしい。ずっと止まったままでいてほしい。

声なんかこれっぽっちも届きやしなくて自分の存在がなくても変わらないんだなとか世の中にありふれた事を思った。じきに雨が止んで、辺りがオレンジ色に染まった。また泣き出しそうで、でも堪えるような空が本当に腹立たしかった。

自分の事をわかってくれるのは結局自分しかいない。孤独だ。ひとりだ。すごく寂しい。もう一歩だけ踏み出して外へ出たって何も変わらない。青春なんてクソ喰らえ。この時期がいちばん苦しいなんて誰も分からないから。

題材「もう一歩だけ、」

8/22/2025, 1:42:48 PM

今日も日が沈んだ都会は眠らない街へと色を変える。
テーブルの上から大事に乗せてあった煙管を手に取ってベランダへ出る。それなりに賑やかでそれなりにアダルトで。3分もいればその場の雰囲気に酔いしれて気分が最高潮へ達してしまう。我を保つためにも苦味のある空気を吸ってひと息吐く必要があった。

ふと見下ろすと一人スーツをきめた男が目に入る。ホストは色恋営業が禁止されてるらしいけど、姫に打ちのめされたのか商売道具のご尊顔を赤く染めて裏路地から出てきた。

「てめぇで叶わないってわかってて恋したんだろうが。惚れた顔に傷をつけるなんてな…」

ふっと軽く鼻で笑ったものの、人様のいざこざを笑えるほど、自分も偉い人間ではない事、ろくな生活をしてない事は分かりきっていた。

ここまで憧れてやってきたのに、本当に何やってんだか。自分に絶望してもなお、夜のネオンに心躍らせているのは変わらなかった。

煙管を咥えてもう一度思いっきり吸って、愛おしそうにゆっくりと吐いた。苦くて、でも甘ったるいこの街の匂いに比べたらずっと美味しかった。

狭くて暑苦しいのにどこか冷めている寂しい街。空を見上げた時、埋めつくしているのは学生時代に黒板から目を逸らした時に見えた空よりも深く複雑な藍だった。この街に染まりきらない空に腹が立ってたったひと息の煙で濁した。果てしなく遠くてちっぽけな都会の空には届くことは無かったけど少しだけすっきりとした心持ちになった。
もう少しだけ起きていよう。そう決めて少しだけ微笑んだ、そんなとある夏のとある都会の夜のお話。

題材「Midnight Blue」

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