読書が苦手だと言っていたあの子に、自分のお気に入りの小説を試しに読んでもらったことがある。
―漫画は簡単に読めるけど、小説は同じ行ばかり読んでしまうから
そう言って、一行ずつ定規をあてて丁寧に読んでくれた姿を、今でも思い出す。
その後、時間をかけて最後まで読んでくれたあの子は、大の読書好きになった。そして私の好みを大絶賛してくれた。
私は私が好きな本を好きと言ってくれたあの子が大好き
『好きな本』
「ただいま」
「おかえり」
梅雨も本格的なってきた頃、久しぶりに実家に顔をだした。
出迎えてくれた義姉は、浅葱色のワンピースにカーディガンを羽織って少し肌寒そうにみえた。
義姉は兄の高校の同級生で、同窓会での再会、からの意気投合で結婚という流れで縁ができた。
「兄さんは?」
「うん、ちょっと出てるの」
一階のコンサバトリーへ通され、お茶をいただく。
ここは天気が良ければ陽当りが抜群で、庭も一望出来るので昔からお気に入りだった。残念ながら今日は曇天だが、梅雨らしく紫陽花が映えている。が、違和感があった。
「あの紫陽花って紅色じゃなかった?」
庭にある紫陽花が朱から蒼に変わっている。
「そうなの?知らなかった」
紫陽花には目を向けずに答える義姉が寒そうに二の腕をさする。
「兄さんはいつ戻るの?」
「もう時期だと思うけど」
なんとなく落ち着きのない義姉と二人、兄を待つ。
今日実家に戻ったのは、両親が亡くなったあとの遺産関連の書類に目を通すためだった。
夫婦で旅行中、車にトラブルが起きあっけなく他界した。四十九日も終わり、片付けなければならない問題をクリアしていかなければならない。
我が家はそれなりに資産があるので色々面倒だ。兄がいてくれて本当によかった。
............
そう、思っていたのに
自分は今、苦しみながら床をのたうち回っている。
どうやらお茶か菓子のどちらかに毒を入れられていたらしい。
兄がロープを持って帰宅し、こちらを見下ろしている。
兄弟仲は良かったとは言えないが、悪くもなかった。
それでも、ドラマや小説のような遺産問題というベタでお決まりの動機に呆れる。
しかも自分だけではなく、すでに叔父も殺られていたようだ。
庭に咲く紫陽花は、これからより一層蒼く映えることだろう。
『あじさい』
『僕の将来』
3年 1組 小山祐太
小学生になったら、将来の夢を必ず聞かれると思っていました。
ぼくは気がついたらようちえんに通っていて、気がついたら3年生になっていました。
この作文も、将来のなりたい自分を思って書かないといけません。
でも、ぼくはまだ何になりたいとか思いつきません。夢だって、えらそうに言うほどのものはなくて、今はいつかフジぱんのミッフィートースターを当てること。とかです。
なので、考えたけっか、ぼくは『やりたくないことをやらない』に決めました。
そうすれば、きっといやなことがない将来になると思います。そしたらぼくはすごくしあわせ者になれるはずなのです。
しかし、もし将来やりたいことが見つかって、そのためにやりたくないことをしなくてはいけなくなったらどうしようって思いました。
なので、その時のために、いろんな行動ができるように今から知恵をつけていこうと思います。
これで、ぼくの将来はしあわせです。 おわり
『やりたいこと』
急に貧乏になってしまった。
何故なら、父が病気になったから。
身体的なものでなく、頭の中で。
それはある朝のこと
「今日で世界が終わる」
突然父がそう言った
今日で終わるので、やりたいことをして、食べたいものを食べるべきだ。という。
何を寝惚けた事をと、皆始めは取り合わなかった。
しかし父は仕事に行かなくなったし、お金はあっても仕方ないと言って全部遣おうとした。
私たち家族はようやくそんな父の奇行に慌て、止めようと頑張ったがすでに遅く、気がついたら我が家の貯蓄はなくなっていた。
この明らかな精神病は、眠るとリセットされるらしい。
眠る前に父は必ず涙を流し、私たちを順に抱き締め世界の終わりを憂いた。
そして翌朝にはリセットされ、今日で世界が終わると絶望するのだ。
今は入院しているが、きっと父は今日も世界が終わる日を一人繰り返しているだろう。
『世界の終わりに君と』
日常の中に散りばめられた゛最悪゛で
最も悪なものを考えてみる
やはり突発的な事故や理不尽な不幸事ではないだろうか
いつものように笑顔で見送った最愛と二度と会えなくなった日
努力を重ねて得た幸福を取り上げられた瞬間
猫の手を借りたいほど多忙な時期や旅行直前での魔女の一撃
今日前髪決まんない超最悪
数ある不幸がある日々の中、人は意図も簡単に最悪と呟く
想像できる最悪が経度なものほど
いかに日常での幸福を享受しているかを伺い知ることができる
『最悪』