実はくじに当たった
誰にも内緒にしてるけど
内緒にしてるから、日常は何も変わっていない
家族も、同僚もみんな、ぼくが大金持ちだってこと知らない
突然の知らせだったからすごく驚いた
今後のことはゆっくり考えよう
ちょっと不安だけど、これからのことを考えるだけで幸せ
でもぼく、いつくじ買ったんだろう
全くおぼえてないけどな
でもメールで「おめでとうございます!」って来たんだから、きっと知らないうちに買ってたんだ
今年はついてる
こんな秘密今まで持ったことないからドキドキしちゃうな
換金するための手数料
早く振り込みに行かなくちゃ!
『誰にも言えない秘密』
落ち着くなぁ
落ち着くなぁ
隅っこ端っこ落ち着くなぁ
小さい寝床落ち着くなぁ
クッションいっぱい落ち着くなぁ
低い天井落ち着くなぁ
落ち着くなぁ
落ち着くなぁ
『狭い部屋』
今回も駄目だった
せっかく久しぶりに活きのいい人に出会えたのに
貴方も喜んでいたじゃない
美味しいご馳走、一流の踊り
働かなくていいのよ
何が不満だったの
私たちだっていい感じだったじゃない
結局陸がいいのね
悔しい
悔しいからお土産に渡した玉手箱
貴方はどうするかしら
あぁ、また亀を陸にやって
めぼしい男を勧誘してもらわなきゃ
『失恋』
毎年行われる近所の祭。夕方に散歩がてら何気なしに冷やかして見ていたら、他の出店より端っこでポツンとその店はあった。
歩行者も多く、それなりに賑わいのある通りのはずだが、その店の周りだけ人は閑散としているようにみえた。
「いらっしゃい、よかったら見ていってね」
老人のような、少女のような、よく分からない女がそう言った。
だが置いてある品は店主の女以上によくわからないものが多かった。
祭の出店に置いてある品など、もともとガラクタばかりなのでおかしくもないが。
「クジもあるよ。一回400円」
なるほど祭らしい。
では一回。
店主が差し出した箱に手を入れ、中にある紙を一枚引き出す。
「はい、4等ね」
紙を確認した店主が次に景品を渡す。
途端に手のひらのヌルッとした感触に驚く。
よくよく見ればナメクジだった。いや、ナメクジの玩具か。手触りといいサイズといい非常に精巧に出来ている。
「これからの季節にいいものだね、毎度あり」
聞けばこのナメクジ、どうやら傘の柄に付ければ、傘を盗まれる心配がなくなるとか。
確かにこんなのが付いていたら皆ぎょっとして、よくあるビニール傘でも間違えることはなさそうだ。
久々にくだらない買い物をしたと、小学生が喜びそうな品をポッケに押し込み再びぶらぶら歩きだす。
翌朝、洗濯を干す母の絶叫を聞くまで、ソイツの存在を忘れ祭を堪能したのだった。
『梅雨』
見て、パレードが来たよ!
わぁ、お姫様綺麗だなぁ
あんなに可愛くて儚い子が家族に虐められてたなんて
王子様に救い出して貰えて良かったね
............
やっとだわ!
漸くここまでたどり着けた
この日を迎えるまで私は本当に頑張ったわ
まともな教育を受けられない環境の中で得たマナーや美しいダンス
大勢の中から見つけられるほどの輝く美貌とスタイルを磨く努力と女子力
何より見た目だけとは思わせないようなウィットに飛んだコミュ力
その他大勢と同時スタートなんてナンセンスよ
私は最適な環境とタイミングで私自身をプレゼンしたかった
その為に継母や義姉たちとの距離感も難しかったわ
いい人たちではなかったけど、本当はそこまで悪い人たちでもなかったから
でも普通の生活ではきっと魔女の助けは得られなかったから仕方がなかった
彼女のプロデュース力の噂は聞いていたから、絶対に向こうから来て貰う必要があったの
おかげでガラスの靴も、門限12時っていう縛りも
大成功だったわ!
やっぱり世の中情報と作戦が全てよね
『無垢』