毎年行われる近所の祭。夕方に散歩がてら何気なしに冷やかして見ていたら、他の出店より端っこでポツンとその店はあった。
歩行者も多く、それなりに賑わいのある通りのはずだが、その店の周りだけ人は閑散としているようにみえた。
「いらっしゃい、よかったら見ていってね」
老人のような、少女のような、よく分からない女がそう言った。
だが置いてある品は店主の女以上によくわからないものが多かった。
祭の出店に置いてある品など、もともとガラクタばかりなのでおかしくもないが。
「クジもあるよ。一回400円」
なるほど祭らしい。
では一回。
店主が差し出した箱に手を入れ、中にある紙を一枚引き出す。
「はい、4等ね」
紙を確認した店主が次に景品を渡す。
途端に手のひらのヌルッとした感触に驚く。
よくよく見ればナメクジだった。いや、ナメクジの玩具か。手触りといいサイズといい非常に精巧に出来ている。
「これからの季節にいいものだね、毎度あり」
聞けばこのナメクジ、どうやら傘の柄に付ければ、傘を盗まれる心配がなくなるとか。
確かにこんなのが付いていたら皆ぎょっとして、よくあるビニール傘でも間違えることはなさそうだ。
久々にくだらない買い物をしたと、小学生が喜びそうな品をポッケに押し込み再びぶらぶら歩きだす。
翌朝、洗濯を干す母の絶叫を聞くまで、ソイツの存在を忘れ祭を堪能したのだった。
『梅雨』
6/2/2024, 8:29:44 AM