「はいはい、ごめんね」
「はい は一回
ごめん は百回言って」
「はい…」
『「ごめんね」』
伊達くんはミニマリストだ
伊達くんとは大学で知り合った。同じ講義をとっているようで、学内では自然と行動を共にすることが多くなった。
伊達くんはパッと見る限り普通の男子大学生だ。
ただ、いつも同じ服を着ていた。聞けば上下同じ服を数枚持っているらしい。制服代わりだよと笑って答えた。
どうやら物が増える事を苦手としており、日常生活も極力最小限のアイテムでやりくりしてるようで、洗濯機も置いていないという。
確かに彼の制服は白いシャツと黒のパンツという、カフェ店員のようなシンプルさなので、洗濯板一枚で事足りそうだ。
そんな伊達くんは何かを貰うということも困るようで、飲み物を買うと付いてくるフィギュアやキーホルダーなども恐れている。誕生日プレゼントやお土産などは消え物が良さそうだ。
そんな学生生活も慣れてきた5月の終盤、
伊達くんは半袖のシャツで来た。
さすがに夏服はあるんだね、と言ったら伊達くんは首を振った。
なんといつも来ていた長袖シャツの袖を切ったと言う。
そうすれば夏の間冬物の服を置いておかなくてもいいし、夏が終われば丁度買い替え時となり、廃棄してまた新たな白シャツを購入するらしい。
ミニマリストとは皆このような思考を持っているものなのだろうか。
世の中には色んな人がいるなぁ、と伊達くんの綺麗にまつられた半袖をぼくは眺めた。
しかし本当に綺麗に縫われている。ミシンなんて置いていないだろうから、きっと手縫いだ。
ぼくは、伊達くんが何も無い殺風景な部屋で、シャツの袖をチクチク縫っている所を想像してしまった。
それは何だかとっても切なくて、ぼくは伊達くんに消えない物を贈りたくなってしまった。
伊達くんは嫌がるだろうけど。
『半袖』
昨今のブラック企業問題は、天界の鬼たちにも該当されている。
どうやら地獄へ落とされる魂が一昔前から急激に増加したようだ。
明らかに人数オーバーで、監視の管理が行き届かない
終わりがないので罪人は増えるばかりで狭い
普通に疲れた、休みがほしい
鬼たちの陳情は日々増える一方である。
上層部もこの問題を重視しており、近々人員を増やすことを約束しているが、鬼研修を無事合格できる者は非常に少ないので、幸先は暗そうである。
そもそも天国、地獄ともに職員が少ないのは、適正な魂が流れてこないのが原因である。
現代においては多様性が叫ばれ、はっきりと白黒をつける事は良しとされない風潮だ。
善と悪のあり方についても疑問視されている中で、強い志を持った魂は非常に稀である。
では地獄へ落とされなかった者が行く天国はどのような状況かというと、それはもう閑散としている。
元々輪廻する魂の休憩場所として扱われる存在であるため、設備と人員は最小限だ。
地獄界隈では天国と地獄の雇用状況のあり方についても不満の声が上がっており、早急な改善を求められている。
『天国と地獄』
あぶなかった
もう少し遅かったら結婚させられてたよ
絶対お断りだって言ったのにしつこいったら
時間稼ぎに無理難題なお宝要求したけど
迎えが来るまでヒヤヒヤしたなぁ
でもお爺さんとお婆さんには悪いことしちゃった
色々親身になってくれたし
お婆さんのたけのこご飯美味しかった
また食べたいな
もう会えないけど
私がいなくなっても元気に暮らしてほしい
今度生まれ変われるなら
次はあの人達の本当の娘になれますように
『月に願いを』
今日も雨だ
雨が貴重なのはわかるけど、降りすぎるのは望ましくない
日本には梅雨があるのだが、何気に春と秋も長く降る季節の変わり目には雨だ
ということは結局年中雨だ
朝も暗くて起きにくいので自律神経が乱れ
頑張って起きても湿気で髪の毛は爆発なのだ
傘は何百年経っても大した進化はされないし
洗濯物は外に干せないからなんだか生乾きで臭い
「ということで、ぼくがこんななのは全部雨のせいだ」
「いいから早く準備しろ」
『降り止まない雨』