人肉

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伊達くんはミニマリストだ

伊達くんとは大学で知り合った。同じ講義をとっているようで、学内では自然と行動を共にすることが多くなった。

伊達くんはパッと見る限り普通の男子大学生だ。
ただ、いつも同じ服を着ていた。聞けば上下同じ服を数枚持っているらしい。制服代わりだよと笑って答えた。
どうやら物が増える事を苦手としており、日常生活も極力最小限のアイテムでやりくりしてるようで、洗濯機も置いていないという。
確かに彼の制服は白いシャツと黒のパンツという、カフェ店員のようなシンプルさなので、洗濯板一枚で事足りそうだ。

そんな伊達くんは何かを貰うということも困るようで、飲み物を買うと付いてくるフィギュアやキーホルダーなども恐れている。誕生日プレゼントやお土産などは消え物が良さそうだ。

そんな学生生活も慣れてきた5月の終盤、
伊達くんは半袖のシャツで来た。
さすがに夏服はあるんだね、と言ったら伊達くんは首を振った。
なんといつも来ていた長袖シャツの袖を切ったと言う。
そうすれば夏の間冬物の服を置いておかなくてもいいし、夏が終われば丁度買い替え時となり、廃棄してまた新たな白シャツを購入するらしい。

ミニマリストとは皆このような思考を持っているものなのだろうか。
世の中には色んな人がいるなぁ、と伊達くんの綺麗にまつられた半袖をぼくは眺めた。
しかし本当に綺麗に縫われている。ミシンなんて置いていないだろうから、きっと手縫いだ。

ぼくは、伊達くんが何も無い殺風景な部屋で、シャツの袖をチクチク縫っている所を想像してしまった。
それは何だかとっても切なくて、ぼくは伊達くんに消えない物を贈りたくなってしまった。

伊達くんは嫌がるだろうけど。



『半袖』

5/28/2024, 12:08:51 PM