人肉

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「ただいま」
「おかえり」
梅雨も本格的なってきた頃、久しぶりに実家に顔をだした。
出迎えてくれた義姉は、浅葱色のワンピースにカーディガンを羽織って少し肌寒そうにみえた。
義姉は兄の高校の同級生で、同窓会での再会、からの意気投合で結婚という流れで縁ができた。
「兄さんは?」
「うん、ちょっと出てるの」

一階のコンサバトリーへ通され、お茶をいただく。
ここは天気が良ければ陽当りが抜群で、庭も一望出来るので昔からお気に入りだった。残念ながら今日は曇天だが、梅雨らしく紫陽花が映えている。が、違和感があった。
「あの紫陽花って紅色じゃなかった?」
庭にある紫陽花が朱から蒼に変わっている。
「そうなの?知らなかった」
紫陽花には目を向けずに答える義姉が寒そうに二の腕をさする。
「兄さんはいつ戻るの?」
「もう時期だと思うけど」
なんとなく落ち着きのない義姉と二人、兄を待つ。

今日実家に戻ったのは、両親が亡くなったあとの遺産関連の書類に目を通すためだった。
夫婦で旅行中、車にトラブルが起きあっけなく他界した。四十九日も終わり、片付けなければならない問題をクリアしていかなければならない。
我が家はそれなりに資産があるので色々面倒だ。兄がいてくれて本当によかった。


............


そう、思っていたのに
自分は今、苦しみながら床をのたうち回っている。
どうやらお茶か菓子のどちらかに毒を入れられていたらしい。
兄がロープを持って帰宅し、こちらを見下ろしている。

兄弟仲は良かったとは言えないが、悪くもなかった。
それでも、ドラマや小説のような遺産問題というベタでお決まりの動機に呆れる。
しかも自分だけではなく、すでに叔父も殺られていたようだ。
庭に咲く紫陽花は、これからより一層蒼く映えることだろう。



『あじさい』

6/13/2024, 3:06:15 PM