ミミッキュ

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1/6/2024, 11:49:49 AM

"君と一緒に"

──…〜♪
 夕方、流れが途切れた為フルートと楽譜ノートを出して、久しぶりにあの曲──overtuReのアレンジに取り掛かる。
 ここは医院で勿論診察室はあるが患者は基本、緊急通報で来る。救急部とほぼ変わらないから、来る時は来るし来ない時は来ないと言っていい程人の流れがとても極端なのだ。
 以前までは途切れによって生まれた空き時間に小説を少し読み進めたり曲のアレンジをしたりしていたが、この所はハナの世話に当てていた為暫く楽譜ノートに触っておらず、フルートもたまに出す程度になっていた。
──ここの音は息継ぎの為に無くすか。
 数小節ほど実際に吹きながら、楽譜ノートに音符を足したり消したりを繰り返しながら曲をフルートにアレンジする。いつものやり方だ。
──やっぱり難点は息継ぎ。アレンジ楽譜ができるまでですら、思っていたより時間がかかる……。
 久しぶりにできると思って出したし、この曲のアレンジをなるべく早く済ませて練習をしたいが、やはり時間を作って専念した方がいい。
──ならせめて、息抜きにあの曲を吹こう。
 息を吸ってあの曲──Brand New Daysを吹く体勢を作る。まだ業務中だから、サビのみの演奏。
──……〜♪
 久しぶりに奏でる旋律に、胸が弾む。
「みゃ〜」
 合いの手のつもりだろう、フルートの音に合わせてハナが鳴き声を出した。可愛い合いの手に癒されながらサビを吹き切って、フルートを仕舞いノートを閉じる。
──続きは夜に。
 机の上に出したままにして、ハナの頭を撫でて診察室に戻り、定位置に着いて患者を待った。

1/5/2024, 1:12:58 PM

"冬晴れ"

 午前業務の準備を済ませ、診察室の座っている椅子の向きを変えて壁掛け時計を見る。開院までまだ一時間程あった。
「思ったより余裕あんな」
──病院前の雪、少しかくか。
 椅子から立ち上がり、診察室を出て居室に入る。
「みぃ」
 ベッドの上で丸まっていたハナが、俺の入室に不思議そうな声を出す。
 壁に掛けていたジャンパーを取って腕を通し、ファスナーを上まで閉めるとハナの頭を撫でて居室を出る。ポケットの中から手袋をだして両手にはめ、裏口から外に出る。
 裏口の横の壁に立て掛けていたプラスチック製のスコップを手に取って、なるべく早めに終わらせようと足早に正面玄関前に向かう。正面玄関前に積もった雪を見る。
──思ったより積もってはないけど、靴裏に雪が詰まってる状態でここを歩くと滑りそうで危ないな……。
 あまり積もっていない為スコップで軽く払う程度で済むだろうと、道と正面玄関を結ぶ通路の縁に雪を払うようにスコップを動かして、通路を歩きやすいよう綺麗にする。短くともそれなりに離れているので、終わるまでに体感で一五分程かかった。
「……はぁ」
──やっと終わった……。腰いて……。
 両腕を上げ身体を上に伸ばし、仰け反らせる。
「んーっ」
 背中から、みし、というような音が鳴る。
──もう歳が歳だしな……。こればっかりは……。
 少し気分を落ち込む。
 ふと目を開けて空を見る。
「うお」
 身体を伸ばすのを止め、空を見上げる。雲一つない、鮮やかな空色が広がっていた。
──そういえば、耳あてして来るの忘れてた。けど、暖かくて、それすら忘れてた。
 こんなに晴れて暖かいのなら、ファスナーを閉めなくても、手袋をはめなくても良かったかもしれない。実際に今、身体を動かしたのもあるのか、身体がほかほかと暖かくて少し熱い位だ。
「……早く戻って最終確認するか」
 スコップ片手に足早に裏口に向かい、中に戻った。

1/4/2024, 11:05:29 AM

"幸せとは"

 美味しい物を食べている時とか、好きな香りを嗅いでいる時とか、誰かといる時とか些細な事で感じるものだと思う。
 けど感じるタイミングは様々。その時に『幸せだなぁ』って感じる人もいるし、失ってから気付く人もいる。
 俺は後者。失ってから幸せだったと、大切だったと気付いた。
 その時の喪失感は、今も忘れない。
 だから、俺の周りにあるものを失わないよう全てを大切胸にに抱いて今までを生きてきた。これからも変わらず、全てを大切に胸に抱きながら生きていく。

1/3/2024, 12:51:28 PM

"日の出"

 昨日の朝も今朝も、日が昇る頃になると太陽が見える方角の窓辺に乗って日が昇るのを待ち、日が昇ってくると
「みゃあーう」
 と、長く鳴くようになった。
──まぁ、見に行ったの二日くらい前だし飽きるだろ。
 一回鳴いたら満足して窓から離れて、居室に入っていく。恐らく、朝ご飯までクッションで横になっている気だろう。
 実は先月の中頃、身体が大きくなってきて窮屈になってきたのかトイレと水分補給とご飯を食べる時以外、ケージに入らなくなっていた。その為、ケージを撤去してケージがあった所にクッションを──因みにトイレは給湯室に──置いた。
 居室に入っていくのを見守って、朝食の準備をしに台所に入る。
──フルーツサンドにするか。
 たくさん貰っていた蜜柑も、正月に──なんとか頑張って──多く消費した為あと数個にまで減っていた。もうひと踏ん張りだと、フルーツサンド──蜜柑のみだが──に決める。
──確かコンビニに泡立て済みの生クリーム売ってたな。急いで行ってこよう。
 居室に入る。見ると、やはりクッションに丸まっていた。
「ごめんな、ちょいと出てくる。もう少し待っててくれ」
 聞こえているか分からないが、ハナに詫びを入れながらジャンパーを手に取り、袖を通す。
「んみゃあ」
 寝ぼけた声で返事をする。しっかり聞こえていたようだ。
 スマホと財布をジャンパーのポケットに入れると「行ってくる」と言って足早に居室を出てコンビニに向かう。
 七分後生クリームを買って戻り、スマホと財布とジャンパーを居室に置いて急いで朝食作りに取り掛かる。耳付きの食パンに生クリームを絞り、その上に蜜柑の皮を剥いてひと房ずつ丁寧に分けながら乗せていく。丸々一個分を並べ終えると、被せるように生クリームを絞り食パンを乗せて対角線上に切って三角に切り分ける。それを皿の上に乗せて、今度はハナのご飯。ハナのご飯の皿を計量器の上に乗せてから電源を入れて計量しながらドライフードを皿に入れていく。適切量になると電源を切り、自分のご飯とハナのご飯を両手にそれぞれ持ちながら居室に入る。
「みゃあん」
 入った途端耳を、ぴくり、と動かして立ち上がり、ケージを撤去してからの定位置に座るといつもより高めの声で鳴く。
「はいはい、お待たせー」
 ドライフードが乗った皿を置くと、「みゃうん」と一声鳴いて、かりかり、と音を立てながら食べ始めた。
──さて、俺も朝飯。
 机にフルーツサンドを乗せた皿を置いて椅子を引いて座り、両手を合わせ「頂きます」と言うと、一切れを手に取り一口齧って咀嚼する。蜜柑の爽やかさと生クリームのさっぱりとした甘さが程よく合わさり、思ったよりも食べやすくて美味しい。
──早く食べて、今日の準備だ。
 気合いを入れ、二口目を齧った。

1/2/2024, 1:41:56 PM

"今年の抱負"

 今年は、うちに運ばれてくる患者が去年より一人でも減るように、去年以上にオペに力を入れる。
 あと、ハナがすくすくと、大きく健やかに育ってくれるように、ハナの体調管理に気を付ける。
 あ……。ハナの体調より、まずは自分の体調管理か……。去年何回か自分が体調崩して迷惑かけちまったから、今年は少しでも自分の身体を大事にする。

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