ミミッキュ

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"冬晴れ"

 午前業務の準備を済ませ、診察室の座っている椅子の向きを変えて壁掛け時計を見る。開院までまだ一時間程あった。
「思ったより余裕あんな」
──病院前の雪、少しかくか。
 椅子から立ち上がり、診察室を出て居室に入る。
「みぃ」
 ベッドの上で丸まっていたハナが、俺の入室に不思議そうな声を出す。
 壁に掛けていたジャンパーを取って腕を通し、ファスナーを上まで閉めるとハナの頭を撫でて居室を出る。ポケットの中から手袋をだして両手にはめ、裏口から外に出る。
 裏口の横の壁に立て掛けていたプラスチック製のスコップを手に取って、なるべく早めに終わらせようと足早に正面玄関前に向かう。正面玄関前に積もった雪を見る。
──思ったより積もってはないけど、靴裏に雪が詰まってる状態でここを歩くと滑りそうで危ないな……。
 あまり積もっていない為スコップで軽く払う程度で済むだろうと、道と正面玄関を結ぶ通路の縁に雪を払うようにスコップを動かして、通路を歩きやすいよう綺麗にする。短くともそれなりに離れているので、終わるまでに体感で一五分程かかった。
「……はぁ」
──やっと終わった……。腰いて……。
 両腕を上げ身体を上に伸ばし、仰け反らせる。
「んーっ」
 背中から、みし、というような音が鳴る。
──もう歳が歳だしな……。こればっかりは……。
 少し気分を落ち込む。
 ふと目を開けて空を見る。
「うお」
 身体を伸ばすのを止め、空を見上げる。雲一つない、鮮やかな空色が広がっていた。
──そういえば、耳あてして来るの忘れてた。けど、暖かくて、それすら忘れてた。
 こんなに晴れて暖かいのなら、ファスナーを閉めなくても、手袋をはめなくても良かったかもしれない。実際に今、身体を動かしたのもあるのか、身体がほかほかと暖かくて少し熱い位だ。
「……早く戻って最終確認するか」
 スコップ片手に足早に裏口に向かい、中に戻った。

1/5/2024, 1:12:58 PM