ぺんぎん

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4/24/2023, 1:11:33 PM

さくさくとわたしの前髪を手際よく梳いていくきみが、銀にひかる、きれいでひんやりとしたはさみが好きだった、じかに肌にふれるくすぐったさで目をぎゅっと閉じた、陽光と暗闇の狭間にわたしはいた、ふと手が止まると同時に瞼をひらいた、やけに明るんだ世界できみはわたしだけを刺すように見つめてそれからすぐ逸らした、わたしはその熱を孕んだ目にひどい痛みをおぼえて、もうきみを正面から見ることはできないと思った、さっききみがふれていただろう黒い束束が褪せた新聞紙にばら撒かれていたのを見て、もっと胸が潰れるようだった

4/20/2023, 6:50:17 AM

春の嵐のひとときに、小さな空き教室にはにはぬるりとした湿った匂いが溢れかえる、ざあざあと雨たちが窓を叩きつけるのがわかる、いかづちがこれでもかというほどに白く真っ直ぐにはしり、ごろごろと腹の底をまさぐるような音がまっさらの雲のあいだから降ってくる、人と人とがあちらこちらへ駆け回り、つるりと少し濡れたホールの床には笛とかトランペットとかの音がいっぱいに落っこちている、ひとつになったオーケストラを記憶の中できれいなままで思い出せるよう拾いあげて家に帰ろう

4/19/2023, 9:10:41 AM

イヤホンのつなぎ目がいよいよ危うくなり、もにもにとどこか口先だけで誤魔化すような調子の悪い嘘のようなべたっとまとわりつく音楽を届け続けていた。笑った、久しぶりに。電機量販店のばかでかい建物と看板はいつも同じようにまぶしいから寂しい。

4/17/2023, 1:20:46 PM

窮屈な浴槽に携帯をはじめて持ち寄って逆上せるまで、すっと生身で、肌でそれを抱きとめては、返事を待ち続けていた。湯気をまとった指で操作すると水の足あとが点々とついて、それをタオルで擦って、そうやってしてずっと待ち続けていた。お外では、桃いろの花びらが枝たちから次々に身を投げている。それを止められるはずはない、痛みに揺さぶられて落っこちた眠りはいつも等しくやさしい。

4/14/2023, 11:07:33 AM

彼女はわたしの教祖だった、わたしのたったひとすじの光だった、宗教と等しいそれにすがる、そんなときにだけ体からふつふつと込み上げる残酷な喜びのなきがらがわたしの背中に張りついている、彼女のなにもかも許した、すべてを捧げた、
そう、このあふれる呪いのような信仰はきみを愛しているから生まれたのだ、愛しているからわたしのために破滅してくれ、とそうはじめてわたしは彼女の喉笛に掴みかかった

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