ぺんぎん

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11/9/2022, 12:18:07 PM

君の踝がわずかに震えたこと、唇の端が少し落ちたこと、喉仏がとくっと隆起したこと
その存在を思い返しては、にじった蜘蛛が靴裏に残るような痛みを孕む
指先を白い息をして温める季節になった、君を蹂躙した日を忘れることもできずに

11/5/2022, 3:00:38 PM

ぱっちり二重に黒髪ロング、胸がでかくて清楚系の彼女、なんて夢のまた夢だった。高校のとき3ヶ月だけ付き合って、いい人だったね、とあっさりおさらばした彼女をずるずると引き摺っていたら、ビデオショップバイトの肩書きがいつまでも無くならない、冴えない万年ドーテー野郎(25)が爆誕した。両親からはその勢いで床が抜けるわってくらい激重な結婚しろオーラを向けられる。うるさい、俺が一番痛感してらあ。ほら、1回だけでも触りたいじゃん、ふわふわしてて、優しくて、おまけにいい匂いの女の子、さっぱりした柑橘系とかの。あ、バニラとかいいな。くだらん煩悩だけ増えてって、キスさえまだ0回。
それでも俺みたいなやつは女の子をひょこひょこ誘い出せるようなワードも根性も持ち合わせていない。なんなら最近いらっしゃいませーしか言ってない。すんません、ありがとうございました、いらっしゃいませー。脳みそを使わずとも、勝手に染み付いた言葉が口から出てくるからこわい。いつかいらっしゃいませーBotになるんじゃないかって。かちゃかちゃと手を動かしては陳列。それ以外は接客。目元にゃひどい隈。はは、将来パイロットと警官になりたかった君へ。俺はこんな有様だよ。ハハハ。
はは、笑い事ではない。毎日カップ麺、もしくはコンビニのちっこい弁当。日頃の癒しなんて、お弁当温めますか、なんてにこにこして問いかけてくれる茶髪のポニーテールのコンビニ店員さんだけだ。そのポニーテールさんも3日前から見なくなった。もう俺は癒しすらもあっけなく失ってしまった。だから仕方なく、魂をふたつくらいひっこ抜かれたみたいな顔で、いらっしゃいませー、っていつも言う。情けなく、ちょっと語尾を伸ばして。
そんなことばかり考えてたらひゅる、と冷やされたすきま風がカウンターまできた。久しぶりに冬だと思った。ここにいるとどうにも季節感がバグる。自動ドアがひゅっと勢いよく開いて、ぴろりろり、と軽快な音楽が轟く。
寒さに背中を小突かれてびくっとする。なに、冬に背中押されてんの、俺。ぱ、と目線を客に移した。
「いらっしゃいませー」
思わずいらっしゃいませのませ、の声がちょっと上擦った。目とか、鼻とか、耳とか、取り敢えず疑えるとこ疑っといた。ずくっと心臓をめっちゃ分厚いナイフで刺し込まれた気分。うわ、かっこいい。俗に言うイケメン。それも珍しいタイプ。
ホワイトっぽいシルバーのさらさら髪。鼻筋と二重がくっきり。なのに目元にはすっげえ隈。ブラック・オブ・ブラック と言えるくらいになにも映そうとしない瞳の色。見つめられては息の詰まるような、サツのする尋問みたいな威圧感。それでもアンバランスなかっこよさを彼は持っている。ひとつひとつ切り取っても、どこもかっこいい。うわ、まじでかっこい、とか好き、とか語彙力の足らないストレートな意見を口走るとこだった。
これって、まさかの、きらっきらの乙女チックに言うと一目惚れってやつ。多分。まじで魔法使い手前の野郎の恋ってなに。そのキャッチコピーだけで萎える。ときめかねえな。でも、あら不思議、抉られたナイフは抜けない。おかしいと、心臓があるとこを摩る。少しだけ隆起していた。おっかない。
「なにみてんの」
ざらっとした、無機質な声。包まれた耳が心地よい。颯爽と俺の前に現れた、曖昧すぎる恋心について悶々と考え込んでいたので、カウンターに彼がふらりとやってきたことも気づいていなかった。近づくと、もっとかっこいい。
「いやあ、なんでもなっ です」
ちょっと言葉が詰まった。ぐらっと目眩がしそうだった。いや、した。目が見れない。うろうろと視線がゲームソフトの並ぶ棚に移る。うわ、近すぎ。これガチのやつじゃん。ほんとにヤローの恋が成立してしまった。どうしよ。気を紛らわそうと、ぴ、ぴ、と商品を通す。ついでにどんなの借りてるのか見る。いま、この店の貸出ランキングにたまに鎮座している有名な映画(情報はあやふやだが)に、人気絶頂のTVアニメの5話、そしてややB級の(俺はそうとは思えないが)アクション、グロ有の心わきたつ恋愛映画。CGっぽさがわかりやすいからだそう。じとっとそれらを見つめていると、彼が声をかけてくる。
「これ、好きなの」
指したのは、B級の(やっぱり俺は認めていない)恋愛映画。
「はいっ」
つい力んでしまった。でもそのおかげでちょっとだけ肩がほぐれた。
「でもこれ、話も結構ありがちだし、CGっぽさが出てるよね」
「えっ」
うぐぐ、とあからさまにダメージを食らったみたいな、苦虫をアポなしで口に放り込まれたみたいな顔をした。やっぱり見る目ないんかな、俺。しょぼ、と落ち込む。
「でも、俺は嫌いじゃないよ、登場人物もいいよね」
「分かりますか」
つい速攻で返してしまった。こりゃヤバい奴だと思われたかな。でも、あまりにも共感できたから。この映画は、冴えない青年が敵から女の子を救おうとする、とかいうありがちな話で出来ている。
主人公は奇麗な目をした青年。やっぱりめちゃくちゃ冴えないけど、誰よりもかっこいい。ほんとに愛してやまない人のためなら、簡単に命まで放り出そうとする。炎とか、銃声とか、爆撃とかが溢れる小屋にまで一人で突っ走る。対して敵は、青年の女に一目惚れをした、ほっそい身体の反社の男。愛してるの密度がイカれているから、取り敢えず、拉致だの、監禁だの、あの手この手を使う。
殴る、蹴る、鼻血がぶあっと飛び散る。ぱん、ぱんといとも容易くブッ放たれる銃の重量。貫いて、貫かれて、好きで、嫌い。そんな喜劇。1人の女性のためだけに、対立した情で終盤まで傷つけ合い、綻び合い、朽ちる。
1番に汚くて奇麗な恋慕、たしかにこの作品に恋をしていた。いろんな体液に塗れて、爛れた頬も知らず、手のなかに沈み込む、愛しい彼女に冷たい鎖を繋ぐ男。すきだ、なんてほとんど消えかかった声でぼやく青年。バッドエンドで、後味のわるい話。それでも、何度も見返すくらいに大好きだった。
純情。それをも上回る、魅力的でなんて潔い悪。思い出した途端に、ああこのひと、この映画の悪役に似てるんだ、と悟る。
「はは、面白いね、オマエ」
ええ、どこに面白味を感じたんだろう。勢いかな。褒められたのか貶されたのかよく分からない。でも多分、貶されたの方だろう。
「なあ」
「一目惚れとか、ほんとにあんだね。オマエ、俺のこと好きだろ」
「はっ」
息をするという行為が脳みそを突き抜けてどっかいったみたいに下手な呼吸をする。えほえほとむせる。えっなんで。この人実はエスパーか。もしくはトンデモイカレナンパ。もしくは新種の詐欺。それはないな。まさかこの人、自分の魅力分かってて言ってんのか。うわーくそっ、悔しー!って思うのにもうすでに罠に引っ掛かってる自分に驚く。
「俺はオマエのこと、すきだよ」
いや、そうなんだー!とはならない。出会って10分ちょっとで告白シーンに持ってく乙女ゲーあるか?普通。あっどうしよ。心臓に刺さったナイフがまた、存在を示すみたいにぎらりと刃を立てる。ばくばくと吐き出された血液が手足の末端までとろとろと注ぎ込まれる。
彼の瞳孔。ひどい隈。俺が好きなのは、ふわふわで、いい匂いのする胸のでかい女の子。今、胸を蜂蜜みたいなのでひたひたにしてくるのはアンバランスで、わけがわからない男。
くっと近づいた、鼻先が触れそう。顔あっつう。
「ずっと、すき」
うなじに乗った手は、骨ばっていて冷たい。俺が熱すぎるのか。任天堂、のでかでかとしたポップな字がかすむ。
「なんちゃって。あ、満更でもなさそうだ」
へら、と笑った。笑った。まさかまさかのトンデモイカレナンパに属する方だったらしい。バグを起こしたみたいに心臓がばくばくしてる。身体の内側を夏と冬がぐるぐる駆け回ってるみたいに季節感が忙しい。彼は満足そうな顔をして、にやにや(絶対にこっ、じゃない)と笑う。腰あたりがへろへろ。もうばればれだろう。いわゆる青春とか、色恋沙汰をとんでもない濃さとスピードで味わった童貞の間抜け面。これは絶対定点カメラでは見ないで欲しい。絵面が救いようのないくらい気持ち悪いことになってる。それでも懲りずにまじまじと見つめてまんまと攻撃を正面から食らう。スライム1匹倒せない雑魚がラスボスにやられる、みたいな呆気なさで。
このひと、笑ったら目尻がくしゃっとなって綺麗。やばい、また恋のトリガー自分で見つけちゃって悶え自滅。店長も居ないし、客も来ないし、これは絶体絶命。
「もっと寄ってもいい?」
「ご勘弁を」
はは、と軽く笑った。

そういえば、と彼が切り出しぽつりと言葉をこぼした。
「誰もいないね」
当たり前のことをさらっとほざいた。やけに引っ掛かった。なんか、あの、あれみたい。喉まで出かかった記憶。彼にずっときゅんとしてる。それでもちぐはぐに塗りこまれた記憶の後ろめたさが肥大する。

「はい」
唐突に彼は薄っぺらい身体から徐ろに何かを取り出す。右耳のピアス。色の抑えられた、濃いゴールド。既視感、なんて言葉が妥当だった。ぞわ、とさっきとは違う細かい鳥肌がたった。まさか。
「受け取ってよ。ピアス穴、こっちにいっこ空いてるよね」
そり、と耳たぶの端っこのほうの穴をなぞられる。身を溶かすような熱が心臓にじわじわと塗りたくられてぽかぽかする。なんで知ってんだろう、俺の快楽の引き金。そんなの、はじめて会ったような人になんて分かるはずがないのに。
「ぅう、?俺、あなたとはじめて喋ったんですけど、?」
彼はにこ、と笑った。今度はほんとに、にこ、だ。あまりにもその顔つきが肌にぴったり嵌っていて鳥肌が項から粟立つ。
「さっきの、嘘。俺は、ずっとオマエが好きだよ」
なんだ、なんなんだあんた。彼の意図も、なにもかもが、一気にわかんなくなった。知りたいのに、触れたら多分、しぬ。脳みその内側でもそんなことを思っている。
「なあ、あの映画好きなんだろ。俺も好き。とくにあいつ。敵のやつ。シビれるくらいかっけえだろ。
愛情の密度も、あらわし方も。どこか螺子がぶっ飛んでる。でも、いいよな。あんなに恋してやまないんだ。だから俺も、おんなじことがしたい」

警鐘がわんわんと喚く。彼の今、言っていることと、彼の重心となる、心根との繋がりが分からない。腹があつい。そり、とピアス穴をなぞる手が止まる。
ああ、そういえば映画の序章では、ばったり彼女と出会ったあいつが、はじめて贈り物をしたんだっけ。誰もいない小さなコンビニで。悲劇の根源。ちゃちなゴールドがきらめく、GPSの埋まっているリング。
「たってる、好きだろ、こういうの」
無機質な声で言われた。恥ずかしい。こわい。心臓の嵌る所が身体の皮膚からでさえ、分かってしまえる。
彼は徐ろに、何かをこちらに向けた。注射器。とんがった針。さらりとした液。
あ、俺監禁されんのな。映画どおりのシナリオなら。あー理解。詰み。かひゅ、と喉から狂った息が生まれた。腰をぐ、と引かれると、脳みそに直接バニラが吸い付いてくる。足元がブラックホールみたいなのに吸い寄せられる。目眩に耐えられなくなる。
冷たい針が皮膚を、さくっといとも簡単に貫いた。痛い、よりもあつい、が勝るなんて。項からじわじわと痺れる。じゅ、と液が身体の内側に注ぎ込まれる。ブラックホールが拡がる。今年のクリスマスプレゼントは、ミステリアスな彼と、全身をなぶるような眠気らしい。なんて最高なハッピーディ!とは、お世辞にも言えない。
でも、でも、彼になら別に好きにされてもいいや、って15分ちょっとの話なんですけど。
「ああ、そうだ。誕生日おめでとう」
幸せと、恐怖のグレーゾーンで立ち尽くしている。ああ、誕生日も知ってんのね。オンボロアパートで食うカップ麺もおさらばだと思えばむなしいの。そうだ、もし生きて帰れたら、2ちゃんねるにでもあげてみようかな。結構受けそうじゃない?いや、無理だろうな。

『誕生日にテライケメン(クソデカ感情持ち)に監禁されかけてる童貞だけど質問ある?』


また調子に乗って書いてます。結構趣味多め。
やっと出来ました
ちょっと投げやりだったりしますが

11/5/2022, 1:11:19 AM

耳たぶや爪のあいだにまでぬるぬるした重ったるさが侵入しては肺まで甘くする
顬から落っことされた体温までメープルシロップにできるくらい
いよいよ瞼まで支配するぬるさがべっとりと余さず塗りたくられ、上書きされては
舌の先っぽまで身に覚えのないぱちぱちとした軽快な痺れを起こす
ぬるい、ぬるい、君はいつでもぬるい温度で容易く皮膚の裏側を溶かそうとする

11/4/2022, 1:21:24 PM

べとりと、ドーナツをむしゃぼった頬のまわりについたクリームを擦る
蜂蜜で満たされたみたいな寝室の酸素が、耳の穴や爪のあいだにぬるぬると入り込む
ただ、君が可笑しくなるのを見ていた、好きだった、君は抱えるもののない蝸牛だった
身じろぎをした、君を蹂躙する悪魔、洗脳でどろどろの君、掴んで食んだら苦い味がした

11/4/2022, 11:42:35 AM

手先にふれた半開きのペットボトル、舌をざらりと浮かすいろんな色したちゃちな飴
喉もとに後ろめたさがはしる、早く飲み込むから、もっとくださいや
ああ素敵、一回私は死んだあと、シロップのプールで泳いでるみたいだ、ここは楽園かな
いいや違う、シロップは、嘘みたく苦しい、くすぐられた胃がざわざわと喚く、甘さに殺されそうになるなんてひどくたまげた、ちがう、私は一回死んだはずだ、ああ蚓が、蝿が、蜘蛛が、羽化したての蛍光色した蛾が、鈍い鳥肌よりはやくにてのひらで生まれた、やめろ、集るな、いやだいやだ、私から生まれるのは奇麗な蝶々、うんそれがいいの、わかったならその飴ちゃんもっとちょうだい、奇麗なものをよこせと蔓延るのは可笑しいの、ああ涙が出そう、ずっと泣いていれば、私からも真珠がとれるのかな、ああ、違う虫、虫、てのひらいっぱいの虫、シロップにも漬け込んでいく、私の楽園を壊すんじゃない、やってきたのは奇麗な蝶々、この際ラムネでもなんでもいい、狂わせるもんをくれ、さっさととってこい、いいや、嘘です、もっとください、お願いします

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