#あなたに届けたい
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彼奴の痕跡を探していた。
居なくなって初めて分かる、とはよく言ったもので
会わない期間だって散々あったのに、”会えない“と分かったら、途端に。
彼奴の好きなもの、場所。
気付けば手にしていた
気が付けば足を向けていた。
それで、彼奴が戻ってこない事も。
...これはただの、自己満。
心に空いたボロボロの穴を、テープで留める為の。
今日は、彼奴の元にやって来た。
持参のコップに酒を注いで
...供えてやるとでも思ったか?
バーカ、お前にやる酒はねぇよ
なんて独り言をボヤき、乾いた笑いが込み上げてくる
呑みてぇなら降りてこいよ
そしたら、考えなくもないのに
そう付け加えて、二杯目の酒を煽った。
周りを吹き抜けた風が、同調してくれているようだった
#I LOVE...
―――
言葉にされなくても、分かっていた
チビの頃から知っていて
随分長い腐れ縁を経て、今になって
意識するようになったら、意外と
ふとした時に向けられる顔とか
飯を食う俺を見る、彼奴の視線とか
今更ながら、自意識過剰かもしれないが
なんとなく、想われてんなぁ...と思ったり
ほら、今だって
熱烈な視線を受けている訳で
新聞を読み込むフリも、そろそろ限界な訳で
「なぁ」
「......あ?どうした?」
「好きだ」
「............」
...こうして、言葉にされる様になった今
断る言葉も理由も無くて
困ってしまう訳なのだが
#街へ
―――
携帯にタオルにテッシュ
財布と、ちょっとの菓子
その他諸々を鞄に詰めて、家を出る
まだ夜の明けきらぬ空に、白い息が上がる
風に吹かれ、電車に揺られ。
着いてすぐは、見慣れた場所だった
あそこの店は潰れてしまったのか
向こうの店は知らないな
あんな所に店なんてあったかな
...しかし、記憶と照らし合わせると
なんだか初めての場所の様でもあった。
まぁ、ウン十年ぶりだから当然なのだが
「......ん、うめぇな」
でも、あの時食べた団子屋の味は変わってなくて、ちょっと嬉しかったり。
そうして食べ歩きそこそこ、道なりに歩いていると、漸く目的の場所に着いた
そこまで結構な人とすれ違って来たが、ここまで来ると人影も見えない。
「......やっと来たぞ、先生」
そこには、一つの石碑。
...昔馴染みの先生が眠る場所。
別れは唐突だとはよく言ったもので
今まで言い訳を並べてきたが、
結局は、寝顔を見るのが怖かっただけ。
一度だけ見てしまった、今にも起き上がりそうな顔を
...だが、今、漸く踏ん切りがついて
「ほら、あんたの好きだった団子だぞ」
傍に置いて、そう呟いた。
「.........なぁ...話してぇ事が沢山あるんだ」
俺も近くに、腰掛けた。
遅刻の件は...あれだ、万年遅刻してたんだから、今回も小言くらいで許して欲しい。
嗚呼、そう言えば...
そう言いながら、俺は口を開いた。
今回は立場が逆だなぁ...なんて思いながら
視界に映る石碑の文字が、少しだけ滲んでいた
#優しさ
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時折、身体に温もりのぶつかる時がある。
...ぶつかると言うのは比喩ではなく、本当に。
俺が座っていると、態々寄り掛かる様に彼奴がぶつかって来る。
もっと言うと、そのソファーは三人くらいなら余裕で座れる広さな物なのに...だ。
最初は、なんだ此奴だなんて思った。
幾ら俺が端に座ってるからって、二人だけなんだから他にスペースがあるだろうと。
まぁ、文句を言う気になれず、時々だったから、そのままにしてきたのだが。
...思う所があった時に限る
そんな法則性?に気が付いたのは、つい最近の事。
何となくモヤモヤしてた時に限り、彼奴は俺にぶつかってきた。
特に何を言うでも、するでもなく。
「.........」
ほら、今だって、此奴は俺に寄り掛かり、優雅に煙管を吹かせている。
...いつも通りだったのだが、一体何を感じ取っているのか
そう苦笑したが、消して嫌じゃなかった。
伝わる此奴の重みが、匂いが、気配が。
何処にやって良いか分からないモヤモヤを、受け止めてくれている様で。
だから今も、特に何も言わず俺は彼奴の寄り掛かり台になっている。
ありがたく、此奴のぶきっちょな優しさに寄りかかる為に
#ミッドナイト
―――
『腹減ったな』
そう言う此奴に着いてきたのは、何故だったか。
街明かりが沈んでいるからか、吐いた息がより白く見え
室内で暖まった身体から、熱が逃げていくのが分かった
辛うじて、手袋のままポケットに突っ込んだ手はマシだと思う
「...お前は、家で待ってても良かったんだぞ?」
玄関口以来の、此奴の声。
普段なら俺一人に買いに行かせるくらいなのに、しおらしく聞いてくる様子が、なんだがおかしかった。
「ふっ、丁度俺も夜風に当たりたかったんだよ」
「ふーん...こんなさみぃのに」
「お前だって、甘味欲しさに出てんじゃねぇか。また血糖値上がるぞ」
「あーあー聞こえない聞こえなーい、最近は落ち着いてっからいーの」
「まぁマジでダメなら殴ってでも止めるから良いんだが」
「いや怖ぇよ?...クシュッ」
そうして話していると、くしゃみが一つ
「おい、だから手袋しろつったろ」
「いやすぐ見つからなかったし、手袋一つ無かったって良いかなってよ〜...ヘクシュ...!」
「言わんこっちゃねぇな...」
顔を見てみると、鼻先がほんのりと赤い。
寒いから当然か...多分俺も似たようなもんだろうしな。
そんな事を思いながら、俺は此奴に片手を差し出した
「......飴ちゃんは持ってねぇ〜よ?」
「違ぇだろ、手だよお前の」
貸せ、っと無理やり手を取り、一緒に上着ポケットへと突っ込んだ。
「...いや、なにこれ」
困惑気味に聞かれる。
その顔は、先程見た時より赤く見える。
「...つか、なんかその、ほら、あの...」
「何時ものハキハキしたテメェはどうした?お眠か?」
「うるせぇな...!普段こんな事しねぇだろうが...!!」
恐らく怒っているのだろが、振りほどかれなければ相手は満更でも無い。
...っと、何かしらの本に書いてあったのを思い出し、いつもの感じで続けた。
「何時もはお前が恥ずかしいとか言うから我慢してんだ。こんな人気のねぇ時間でくらい良いだろ」
「恥ずかしいとは言ってねぇだろ!」
「じゃあこれからは真昼間でもやるぞ?」
「ぐっ...」
俺がそう言うと、折れた様でそれ以上は何も言われなかった。
......此奴は嫌がるからやらねぇが、本当は周りに見せつけてやりてぇと思う。
本人に自覚は無いが、変な所でモテやがるから。
だったらせめて、こう言う二人きりの時に慣らしをするくらい許して欲しい。
そして続けて行けば、真昼間でも折れるだろう
「はぁ...ったく、早く菓子買って帰るぞ」
そう言うと、此奴は足早に手を引かれた。
...まぁ、今はこれで十分だ
と、俺は歩数を合わせる様に踏み出す。
ミッドナイト...とか、何とか。
空に浮かぶ星々が俺らを見てる様だと...有り得ない妄想をしながら。
「俺は少しくれぇ寄り道してもいいんだがな」
「俺は早く買って食いてぇからダメだ!」