#月夜
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街灯に照らされた帰り道
澄んだ黒に浮かび、控えめながらも魅入ってしまう白金に、彼女の姿を視ていた
今、彼女はどうしているだろう
たった3日の出来事が、昨日の事のように
そして、何年もの事の様に思う
それだけ印象的だったのだ
あの場所において、彼女という名の満月は
もう、道が交わることはないだろう
彼女にとって、僕は最高のパートナーになれないだろう
だが、確かに僕の知る満月は
今も太陽を求め、世界を飛び回っているだろう
ふと、口元に触れる
外気に当てられたそれは、やはり冷たい
ほんの少しそうしていると、僕は再び歩き出した
届かぬ満月を、追い掛けるように
#絆
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カーテンの隙間から漏れる陽射し
視線の先にある天井は、白よりの灰色
――瞬間、雷撃の如く襲ってきた頭痛
グッと、堪らず声が出て
重い手で頭を抑えた
何度経験しても、この痛みには慣れないと改めて思い知らされる
すると、近くから低い唸り声
何とか視線を机の向こうへ向けると、空き缶に囲まれながら眠る彼奴
...腐れ縁。
そう言ってしまえば、それまでだ
自分がこんなに痛い思いをしているのに、穏やかな顔で眠る彼奴に嫌気が湧く
まぁ、起きたら同じ様に苦しむだろうし、俺のこの痛みも自業自得なのだが
そんな事を考えていると痛みが和らいできた様で。
身体を這いずらせ、何とかキッチンへ
そしてコップを片手に蛇口を捻り、入った水を勢いよく煽った。
モヤの掛かっていた意識に、サァッと風が吹き込む
少し落ち着いて来たところで、息を吐く
そうして違うコップにもう一度水を入れ、彼奴の元へ
何度見ても、相変わらずムカつくほど穏やかな顔だ
水でも掛けてやろうか、なんて思いを振り切り、軽く肩を揺らす
「んん………あ?なんだお前か…イッッ!?」
漸く目覚めた此奴は、予想通り情けない声を出しながら目を開けた
嗚呼、俺も此奴も反省しねぇな
デジャブを感じる光景に溜息を吐きながら、俺はコップを差し出した
#たまには
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ふわりと舞うピンクの花弁
たっぷりと肥えた満月
二つの杯に酒を注ぎながら、ふと空に視線を向けた
情緒も何もあったものではなく
ただ酒を肝臓に流す毎日
ただ、今日は
缶ビール売り場の、ありふれた文言に釣られて
こうして月見酒にあり着いている訳であるが。
杯を一つ手に取り、口元で傾ける
......嗚呼、ダメだダメだ、寧ろ災厄。
彼奴の言う情緒とか、やっぱり分からねぇし
何より、何でか酒がしょっぺぇと来たものだ
どうしてこんなんで、酒を呑んでたんだか
心の中で悪態をつきながら、再びグイッと酒を煽る
やっぱり二回目も、何時もの味より塩っぱかった
#大好きな君に
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心の底から、叫びたかったんだ
気の利いた言葉も
上手い言葉にも出来ないけれど
ただ、心からの愛を
素直に受けとってくれない
不器用な君に
#ひなまつり
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あかりをつけましょ
ぼんぼりに
おはなをあげましょ
もものはな
楽しげに謳う子供の声
画面上には、高く華やかな祭壇
味噌汁を片手に、今日が世で言う所の”ひな祭り“だと言う事を思い出した
『おめでとう』
そう祝われていたのは学校があった頃迄で。
こうして一人暮らしをする様になって
子供もいない身としては
随分縁遠いものになったと思う
自分には関係ないよなぁ...つか時間やべ
眺めている場合ではなかったと、慌ててご飯を搔き込む
「ひな祭りは、女の子の健やかな成長と幸せを願い、お祝いする行事なのですよね」
「そうですね、ちらし寿司やひなあられ、甘酒を楽しむのも良いですね」
では、次のニュースです。
少し話して、画面上のキャスターは次の話題について話し始めた
......帰りに、ちっちゃいちらし寿司でも買うかな
食べ終えた皿をシンクに下げながら、私は少し帰りを楽しみにすることにした