#バレンタイン
―――
変わらない大きさ、色、柄、中身。
...その中の、一つにだけ
小さなシールを貼り付ける
きっと分からないし、気が付かなくて良いよ
ただ少し、君に渡す手に、力が籠ってしまうだけだから
受け取って貰えるだけで嬉しいの
だから、どうか気が付かないでいて
私が君を、諦められるその時まで
#待ってて
―――
桜に攫われるぞ、と
冗談を叩きあったのは、何時だったか
春一番にまたここで、と
そう約束をしたのは、何時だったか
この木を眺めるようになって
幾つ年が経っただろう
記憶の中の君は
一体何処へ行ってしまったのだろう
「帰るから待ってろ」
そう約束したのに
「嗚呼、待ってるよ」
そう言ったのに
何、すっぽかしてくれてんだ
写真の中の笑顔な君に、何度問いかけただろう
約束は守れと、口酸っぱく言っていたのは君だろう
君が破ってどうするのだ、と
...俺はまた、桜に問い掛けた
なぁ、桜さんよ
彼をどこにやってしまったの
お願いだから、返しておくれ
#伝えたい
―――
気が付かないフリをしていた、のだと
気が付いたら傍に居て
大っぴらに愛を告げられ
目線を合わせれば、一本線の口が少しだけ動く
もはや言い逃れのできない想いをぶつけられ
いつの間にやら外壁を埋められ
...それを拒否できない、自分もいて
だから今はただ、絆されていようと思う
今は言えなくても
今は受け取るだけで精一杯でも
彼奴が、飽きてしまわない限り
この想いを抱いていよう
そうして、いつしか伝えられるように
#この場所で
―――
我儘だと思う
また背負わせてしまうと思う
目の前に、作り笑顔がある
水滴が、ポタリと頬を濡らした
...嗚呼、俺は最低だ
そんな、取り繕わさせているのは自分なのに
きっと、此奴は引きずってしまうのに
最後が此奴の腕の中で
最後に見るのが此奴の顔で
「―――ありがとな、」
”幸せだ“と思ってしまった
#誰もがみんな
―――
灰色の空と、スッキリしない空気に煽られ、溜息が零れた
足元に目を向ければ、彼が居る
目元にくっきりと黒を刻んだ彼が
自分の為〜だとか言いながら
結局は他の為に動き回る姿はそれらしいが
それでこんな顔を作ってしまうのだから、しょうがない奴だと思う。
それに、30分仮眠を取るのにあそこまで渋る事はないと思う
そんなこっちの気も知らず、眉を解し目を閉じている
...だから、頬をつまむくらいはしても良いだろう
少し歪んだ顔がすぐに戻るのが面白くて、起きてる時なら間違いなく苦言が飛んできただろう事を思って。
思わず、笑みがひとつ
だからお礼に、時計の針を一時間程ずらしてやる
それで彼が起きたなら、もう一度言ってやろう
「誰もお前にそこまで求めてねぇんだよ、ばーか」と
そうしたら少しは怒って、記憶に残してくれるだろうか
そんな事を思いながら、窓の方へ目を向けた
まるで夜だとでも言いたげな空が、窓をパタパタと叩いていた