#無色の世界
―――
最初から「無かった」訳ではない
辺りは大抵は緑
変わるとしたら、空の色くらい
そんな中で、当たり前の日々を
いつも通りのメンツと過ごす
それに、少し飽き飽きして
電車を2つか、3つ
跨いだだけだと言うのに
じっくりと、じっくりと
あの日々が、ビルの微光に焦がされて
すっかり俺の世界は「褪せて」しまった
あの景色が、今は遠く懐かしい
嗚呼、願わくば
もう一度、あの緑に縋りたい
#桜散る
―――
終われば始まる
始まれば終わる
その循環の中で、桜とは特別な意味を持っている
「キレーだな、桜」
春の木を眺める男――波澄(はすみ)は、そう思っていた
射し込む木漏れ日と、葉を揺らす風は暖かい
「うわっ、らしくねー」
ゲーっと、隣に立つ佐藤(さとう)が呟いた
...だが、その視線は手元の団子に向けられ、まさに花より団子状態である
「失礼だなお前」
「だって事実じゃん」
「ま、自分でも思うけどよ」
そう言い、波澄は団子串をヒョイっと手に取った
「あっおい」
「今までの詫び代としてもらうぞ」
ピースをする彼に、佐藤は隠そうともせず舌打ちをする
「つーかさ、いきなりなんだよ、桜がきれーだって」
不貞腐れたように佐藤が言うと、あぁっと思い出したかのように話し出した
「別に...桜っていや卒業と入学だろ?」
「いきなり?つかそれ春じゃね?」
「しーらね」
間を抜ける風に誘われ、波澄が団子を一つ口に運ぶ
「ふぁふらふぁって」
「食ってから喋れや」
ごくんっと、小さな音が聞こえたような気がした
「...だって春はイメージ多いけどさ、桜は桜じゃん。桜は咲く時も散る時もワーワー言われてんじゃん」
「...まぁ」
「だから、それらしい事言ってみたかっただけだよ」
「しょーもね」
「ほざけ」
パクリと、二人同時に最後の団子を食べ終える
「......」
「......」
「...引越し、一週間前なんだって?」
「え、今??」
信じられん、そんな顔で見つめられ、波澄は顔を背ける
「うっせーよ!大体な、今日はその話が聞きたくて誘ったってのにおめーが団子食い始めるからだろーが!!」
叫びに反応したのか、はたまた桜自身が笑った為か
桃の葉が今日一番揺れた
ただ当の本人は、何処吹く風と言う様子
「そーだっけ」
「そーだわバカ」
「つかそれこそ驚きだわ、引越しくらいで」
「くらいではねぇだろ、一世一代って聞いたぞ」
「そーだっけ」
同じ台詞に挟まれた会話に、波澄は佐藤の肩を掴む
「...どーして教えてくんなかったんだよ」
「さっき言ったろ、くらいだって」
「だから」
「オメー的には清々すんじゃねぇの、俺が居なくなって」
半ば吐き捨てるように呟かれた一言
佐藤は一息つくと、緩んだ拘束を解いた
「...じゃーな。くれーつっても、準備は山ほどあるから」
すると、波澄の言葉も待たず、佐藤はその場を去ってしまった
残ったのは、春の花達と、串だけとなったパックと、彼
波澄は佐藤の背中が見えなくなると、その場にへたり込んだ。力が抜けた、と言うように
「...だから、それくれーじゃねぇんだって、馬鹿め」
――――――
「...嗚呼、分かっていたさ」
一人の男が、呟く
「いや...これは強がりか、なーんも分かってなかった訳だし」
自傷的な笑みが、一つ
「...これは、らしくねー事言っちまった罰なのか?」
男が、問いかける
「......あの時、別の行動をしていたら...いや、これも言い訳か」
ジッと、視線が一つの人に集中する
「お前の言ってた事が、漸く分かったよ」
男は、力の籠っていない手をそっと握った
「でも、それはオメーのせいなんだぜ?オメーが、お前、が」
「桜を、忘れられねー花にしちまったんだ」
「どうしてくれんだよ、馬鹿」
#夢見る心
―――
確かに、それは存在していた
目に映る景色
それがまるで、無数の星の様に
嗚呼、自分もあそこに立ってみたい
一直線の心に沿い、僕はそんな事を思っていた
だが、今はどうだろう
映った景色は
まるで水面に浮かぶただのプラゴミ
あれだけ願っていたと言うのに
今じゃ、思い出すだけで寒気がする
夢見た世界は薄暗く
あの頃の輝きも
真っ直ぐさもない
あるのは
ただ曇りきった目ん玉と
揉まれに揉まれ、星の見えない道をゆくことしか出来ない
#神様へ
―――
彼に誓います
神様にも、誓います
病める時も、健やかなる時も
彼を愛し、彼と共に
幸せになる事を、誓います
そう
誓いたかったんです
彼の隣で、彼と共に
どれだけ愛を語っても
どれだけ純白に身を包んでも
お義母さんから受け取った指輪を
彼の冷たい薬指に通しても
彼が居なきゃ、なんの意味もないのに
これじゃあ、ただの妄言だ
―――ねぇ、神様
どうして、彼を攫ってしまったの
#快晴
―――
空は心の鏡と言うけれど
そうだと言うならば、どうか映してくれよ
僕の心に、あの澄んだ青空を