海沿いの高台にあるカフェの窓から
1人で見る海が好き。
ここは、いつ来ても賑やかだから、のんびり、ぼんやりしながら1人を満喫出来る時は限られる。
この海は、私史上2番目に美しい海。
そんな海のそばが生活圏内とは、なんて贅沢で誇らしい羨ましい事ではないかと思う。
真夏の太陽が照りつける季節には、ウインドサーフィンで楽しむ人も多く。海産物のお土産物屋さんに立ち寄る、観光バスも訪れる。
最高の太陽があるその季節。賑やかなカフェで、誰かと一緒にいる時間も悪くはない。
けれど私は、あえて雨の日を待つ。
このカフェから見る風景は、雨の日の海が似合う。
雨が降るたびに、カフェから見える今日の海はどんなだろうな?と思い出す。
大きなカフェの窓に雨粒が流れ落ちる。
それを見ていたい。
なんだか寂しい人に見えるかな?
でも、本人は喜びで溢れ、ウキウキしているのだけど。
しばらくすると、雨は止んでいる。
大きなパフェも底をついてしまい、コーヒーも冷めたまま。
気づけば辺りは瞬きも出来ないほどの、大きな夕焼けに包まれる。
夏の夕刻ならではの風景。
オレンジ色に染まる海面。
まるで大きな水彩画を見ているような、それは人工的に作られた物のような美しさ。
この景色に出会えるタイミングなんて、めったにない。それを何度か見て来た私は、本当に運が良い。
雨の日の静かな時間。
最高の贅沢な時間。
久々、ぼんやりしたい。
ある年の私の誕生日。
ショートメールで、
🎉♥︎ ᕼᗩᑭᑭY ᗷIᖇTᕼᗞᗩY ♥︎🎉が届いた。
送り主の名前もなく。
私の名前も入っていない。
もしかしたら送信ミスかもしれないな。
たまたま同じ日が誕生日かもしれない。
でも、届いてないなんて可哀想だし、教えてあげよう。
私は、「確かに本日、私は誕生日を迎えたのですが、あなたがどなたかわかりません。もし宛先を間違えて送信しているとしたら、届けたい方へ届いていないので、連絡さていただきました」
と、返信した。
「迫田です。間違えてないと思います。お誕生日おめでとうございます。やっと届けられたようで良かったです。」
さこた。。
1人しかいない。
記憶に留めておけないほど遠い別れ。
何故今頃?
そこから本人同士である事を確認した後、しばらくそのまま近況など話した。
当時好きだった音楽の話。最近はどんなLIVEに行ってるよとか。でも、私がどうしているかを語る事はあまりなく、聞くのみに偏った。
「、、、それにしても。何故今、誕生日おめでとうなど送ってきたの?」
「まず、どうしてもあなたの電話番号は消せなかった。実は毎年送らせて貰っていてあなたの電話番号がすでに変わってしまって届いてないのだろと思いつつ、あなたとやり取りした番号だから消せなかった。あなたに会いたい。会いたくてしかたない。」
やっぱり最後は会いたいって言うのか。。
私はまったくその気がないので、冷たく返す。
「懐かしさだけで会いたいと?それなら会わない方がいいですよ。私はもうあの頃の私では無いし、もうあなたのためにしてあげられるものは何も持ってませんから。」
「時が過ぎて、あの頃のままではないのはお互い様だよ。何かして欲しいなんて思ってない。ただずっとあなたに会いたかった』
やり取りの延長が、相手の猛烈な会いたいが激しくなった。私も会いたい!なんてなれば良かったのかな?逆にもっと冷めゆくばかりで、このままだとストーカーにもなりますし。。みたいな事まで言ってしまった。
時々、ふとした瞬間に、あの人は何故、あんなに激しく会いたがったのか?消せないアドレスだけではなく、懐かしさだけでもなく、何か精神的に困っていたのだろうか?助けを求められる手段は私だけだったのだろうか?
あれから8年経過して、あの日のやり取りからピタリと音信は途絶えたけれど、会いたい理由もそこそこに、いきなり突っぱねた事を後悔している。
もう少し、話を聞かなければいけなかったのではないか?と。
神経質なあの人が、元気でいてくれている事だけ切に願う。
雨上がりのアスファルトの匂い。
エスカレーターに乗った時、どこからともなく感じた、あの人の、あの日の香水の香り。
ラジオから流れる懐かしい曲。
遠い日の記憶は香りと音が覚えている。
急速に『あの日』へと引き戻されそうになるが、戻りきれない、今とあの日の違いが境界線を作る。
私は一瞬でもいいから、あの日に戻りたいのだろう。けれど、今を生きなくてはならない責任もわかっているのだろう。
デジャブのような感覚をよく感じ取る事があって、嬉しくもなるけれど、言葉で説明するには難しい。
あんなに遠い日の記憶なのに、まだ身体が離さないのだと知る。
これはもしかして、パラレルワールドにいるの?別の世界から、元の世界を見ているだけなの?
だとしたら、もう戻れない懐かしさを、目で追うだけだったのかもしれない。
懐かしく感じるだけなら、完全に戻ってしまわない方がいいからね。
懐かしく羨ましく思うほどの過去で幸せだわ。思い出したくもない事だって、そりゃぁあったけど、そんな嫌な事はこの場に思い出す事すらないのだから。
夏の夜。
ひんやりした風に当たりながら、車の窓から見る、埠頭の灯が懐かしい。
街の灯りが消えかける頃、埠頭の灯りは美しさを増していた。
私は運転しながら、横目にそれを視界に入れる。
これ、夏の夜だから余計に良いよね!
なんて話しながら。
そういえば、東へ出かけた時は仲良く帰宅していたけど、西へ出かけると、何故か帰りは不穏な空気になっていた気がする。
そう、最後の夜も西から帰った日だった。
西と東では、目に映る灯りのイメージが違っていたからね。
人の心も何かが変わるのかもね。
本音を引き出された西の灯りと、本音を隠された東の灯り。
どちらが悪い訳でもないか。
どちらも良くなかったと言う事か。
そんな事は、もはやどうでも良い。
埠頭の灯りが見せたマジック。
その一瞬は美しくて忘れられない一瞬である事に変わりはないが、もしまた見る事があっても、あの頃とは違う色の新しい色で塗り替えたいと思う。