紫乙

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雨上がりのアスファルトの匂い。
エスカレーターに乗った時、どこからともなく感じた、あの人の、あの日の香水の香り。
ラジオから流れる懐かしい曲。

遠い日の記憶は香りと音が覚えている。

急速に『あの日』へと引き戻されそうになるが、戻りきれない、今とあの日の違いが境界線を作る。

私は一瞬でもいいから、あの日に戻りたいのだろう。けれど、今を生きなくてはならない責任もわかっているのだろう。

デジャブのような感覚をよく感じ取る事があって、嬉しくもなるけれど、言葉で説明するには難しい。
あんなに遠い日の記憶なのに、まだ身体が離さないのだと知る。

これはもしかして、パラレルワールドにいるの?別の世界から、元の世界を見ているだけなの?
だとしたら、もう戻れない懐かしさを、目で追うだけだったのかもしれない。

懐かしく感じるだけなら、完全に戻ってしまわない方がいいからね。

懐かしく羨ましく思うほどの過去で幸せだわ。思い出したくもない事だって、そりゃぁあったけど、そんな嫌な事はこの場に思い出す事すらないのだから。

7/17/2024, 3:42:03 PM