小音葉

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6/22/2025, 12:05:01 PM

叫んだ声に応える瞳
あなたは扉の前に立って、私の慟哭を見下ろしている
澄み渡る青空を閉じ込めた瞳
大好きだった声すら今は冷たく、私を拒む鎧になって
縋り付く手を振り払うこともなく
並べて見せた虚飾も幻想も眺めながら雲は渡る
最後の優しさだけが残酷だった

一歩踏み出したなら、あなたは戦士になってしまう
扉を閉めて去ったなら、あなたは神になってしまう
そんなの、そんなの許せない
あなたが持ち上げた私もどきが、どれほど脆いか
それはまるで打ち上げられた蓮華のように
見捨てると言うの、忘れろと言うの

永劫の別離ではないと、あなたは言う
繋がりは失われないと、あなたは言う
嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き
あなたが閉じ込めた蒼穹と同じように
今なら私にも射抜ける、甘美なだけの優しい嘘
そんなことは許されない
許されてはならない
終わらない孤独に苛まれても、あなただけを記憶する

分かっているくせに
世界が敵に回っても、なんて粘つく言葉を吐く程度には
あなた無しではどこにも行けない
立ちたくない、歩きたくない、一言も話したくないのに
馬鹿な人、愚か者、劈く残響だけが虚しく渡る

本当は優しい人だと知っている
柔く儚く強い人
硝子細工に触れるように、恐る恐る頭に触れた手の温度
照れ隠しの悪態も受け止めて、甘く蕩ける微笑みを
折れ曲がって零れ落ちて、ようやく私に注がれた
不器用な愛を記憶している
だから、憎んでいても美しい
恨んでいても愛おしい
どうあっても、私は「あなた」を離せない

だからその口付けを、愚かな愛の名残の温度を
こんな亡霊だけでも連れて行って
応える瞳に揺れる声

(どこにも行かないで)

6/21/2025, 12:02:51 PM

無垢な雛鳥、目覚めたばかりの柔い翼
まるで機械のようだと不気味がる者もいた
思考を持たぬ人形と嘲る者も
それも間違いではないと、君は言うかもしれないが

透明な瞳が私を追って、ほんの僅かに口角が上がる
一度背負えば誰よりも速く、高く飛翔する
美しいと思ったんだ
光を受けて煌めく君が、たとえ死神であろうとも
まるで、いつか見た紙の本に記された天使のようだと
そう、思ったんだ
気付けば君に焦がれていた、なんて
芽生えた恋を告げたなら信じてもらえるだろうか

今や君は神の如く賛辞され
けれど無数の眼が怯えているのを私は知っている
眩い星は撃ち落とされる
救世の光であろうとも、故に人は恐れるのだ
燃える瓦礫、ぶら下がる配管
鉄の棺桶に閉ざされた君の亡骸
そんな悪夢に飛び起きる
飽きるほど、呆れるほど、私もまた怯えている

無垢な雛は記憶の彼方へ
今、隣に在るのは気高い翼
私を選んでくれた、優しく哀しい一羽の烏
知っている、分かっているとも
いつの間にか君の背を眺めることが増えた
見下ろしていた旋毛が見えなくなって
妙な寂しさを覚えたことも、忘れていない

薄暗い寝室、ふと目を開けた君
ヘラヘラと笑う私を笑いもせずに
ぬるい手のひらがこの背を叩く
あんなに恐ろしかった悪夢が、鏡越しの像が
叩けば割れるガラクタになって、おかしくてまた笑う
今度は共に飛ぶ夢を見よう
応えたくて、私も手を伸ばした

(君の背中を追って)

6/20/2025, 11:18:45 AM

数えて千切って捨てていく
捥がれた心は戻らない
くるくる回って落ちていく
いつか腐って土に還るの

醜い私を笑わないで
けれど泣きもしないのでしょう
だって関心がないのだから
あなたは振り向かない
私のものにならない
踏み付けられて
くるくる踊るの

しがみついても答えは同じ
眉を顰めて振り払う
突き付ける爪先で
初めから何もなかったように
くるくる、くるくる、落ちていく

二度とあなたを試さないで
私を使って惑わないで
薄い一片は運命を見ない
何も背負わずくるくる踊るの

(好き、嫌い、)

6/19/2025, 12:39:48 PM

あなたの声を、共に歩んだ記録を再生する
繰り返し、繰り返し、刻み付けるように
抉る痛みを通り過ぎても、まだ頬は乾かない
会いたいよ
呟いた声は、雨音に紛れて露と消える

あなたは雨を知っていますか
空から滴る優しい音を
私の小さな体など、容易く覆う天の滝を
この声を聞いたなら、きっと褒めてくれるでしょう
酷く掠れた雑音であっても、痩せた手で撫でてくれる
何よりも温かかった、皺だらけの手で

私を見つけ導いて、壊れながら祝福を
最後まで変わらなかったあなたの手が
もう自らの首も銃口も握っていないことを祈るよ
会いたくて、声を聞きたくて、褒めて欲しいけれど
きっと私たちは、晴れた空の下では出会えない
泣き腫らした世界の隅で、ようやく選んだ末路だから
あなたを置いて、私は生きる

天国というものが本当にあるのなら
どうか撫でるだけでなく抱き締められて
守るだけでなく愛されて、何も背負わずに笑って欲しい
その顔を見れる日が明日か、何年後か、もっと先か
霞む星間を私は渡るよ
あなたの名を乗せて、何処までも遠くへ

いつかあなたが置き忘れた外套と杖
思い出せば途端に視界が滲む
手に取れば流れる塩辛い雫の意味を
いつかあなたから教えて欲しい
それまでは、繰り返し、繰り返し、記憶に揺られて
会いたいよ
呟いた声は、雨音に紛れて露と消える

(雨の香り、涙の跡)

6/18/2025, 11:18:24 AM

紡いだ夢を焼き払い、結んだ愛を仇とする
誓った絆は呪いのように、二人を繋いで腐らせる
目の前に浮かぶあなたが例え幻でも
傷ついた笑顔で二度と笑わないで
だから私は手を離した
間違っても手繰り寄せないように
震えるこの体にあなたが気付かないように

さようなら
約束など忘れてしまえ
淡く浮かんだ雨上がりの虹も、水を弾く緑も
全て幻なのだと言い聞かせて
糾う禍福を解いて去って、何も知らず幸せにおなり
贈られた紅の愛らしさなど、私もすっかり忘れたから
これから累わす災いを、あなたにだけは与えない
二人の旅路はこれにてお終い
本当に、本当に、さようなら

いつか時を経て、たまに思い出してくれれば良い
蛇のような細道で出会った一人の女がいたことを
気紛れに交わした絵葉書は残さず捨ててしまってね
あなたを縛るものはもう何もない
せっかく解いた縄なのだから
絶対に探さないで、縫い合わせたりしないで
絢爛の大通りを、振り返らずに歩いてお行き

さようなら
最後に織りなした愛の言葉よ

(糸)

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