小音葉

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叫んだ声に応える瞳
あなたは扉の前に立って、私の慟哭を見下ろしている
澄み渡る青空を閉じ込めた瞳
大好きだった声すら今は冷たく、私を拒む鎧になって
縋り付く手を振り払うこともなく
並べて見せた虚飾も幻想も眺めながら雲は渡る
最後の優しさだけが残酷だった

一歩踏み出したなら、あなたは戦士になってしまう
扉を閉めて去ったなら、あなたは神になってしまう
そんなの、そんなの許せない
あなたが持ち上げた私もどきが、どれほど脆いか
それはまるで打ち上げられた蓮華のように
見捨てると言うの、忘れろと言うの

永劫の別離ではないと、あなたは言う
繋がりは失われないと、あなたは言う
嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き
あなたが閉じ込めた蒼穹と同じように
今なら私にも射抜ける、甘美なだけの優しい嘘
そんなことは許されない
許されてはならない
終わらない孤独に苛まれても、あなただけを記憶する

分かっているくせに
世界が敵に回っても、なんて粘つく言葉を吐く程度には
あなた無しではどこにも行けない
立ちたくない、歩きたくない、一言も話したくないのに
馬鹿な人、愚か者、劈く残響だけが虚しく渡る

本当は優しい人だと知っている
柔く儚く強い人
硝子細工に触れるように、恐る恐る頭に触れた手の温度
照れ隠しの悪態も受け止めて、甘く蕩ける微笑みを
折れ曲がって零れ落ちて、ようやく私に注がれた
不器用な愛を記憶している
だから、憎んでいても美しい
恨んでいても愛おしい
どうあっても、私は「あなた」を離せない

だからその口付けを、愚かな愛の名残の温度を
こんな亡霊だけでも連れて行って
応える瞳に揺れる声

(どこにも行かないで)

6/22/2025, 12:05:01 PM