小音葉

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4/18/2025, 10:56:59 AM

白亜の檻にて綴られるただ一つの詩
埋もれた原稿の片隅に残されていたような
靴跡塗れの絵空事
天蓋の中で書き殴った紛い物

遠い昔、そのまた昔、踏み躙られた無辜の殻
透明な蕾は涙を啜り
虚飾の色を吸い上げて
奈落より暗い花を咲かせた
誰も知らない御伽噺
けして叶えてはならない不思議の国よ

掠れた深淵を丁寧に
何度も重ねて周到に、確かに沈めたはずなのに
溢れる雫はこの顔を溶かして
望まない祝福を、夜明け前まで染め上げる
朝が来なければ良い
彼が来なければ良い
願ってはならなかった崩壊の序章
楽園は翻り、無垢な少女は突き落とされる

黒い花は踊り狂う
ただ一つの詩を携えて

(物語の始まり)

4/16/2025, 11:05:58 AM

刺された荊は数知れず、無様を晒して生きてきた
曇天を越えれば沛雨に見舞われ
泥に足を取られれば、夥しい手に掻き毟られて
結局どこにも辿り着けない
燃え滓の絶叫と曼珠沙華

惨めなばかりの枯れ尾花
慰めの唄を忘れた卒塔婆の群れ
灯火の届かない夜のしじまに飽いて酩酊
幾度朝を迎えても、私を迎える国はなく
吼える獣も喰らわぬ毒が
ただただ蔓延り世を腐らせる
神よ仏よと願っても、お誂え向きの偽善は門前払い
呑み干す灼熱で喉を焼き
浅い眠りで私をあやめて
三途の川を漫ろ歩き、それでも迎えは訪れない
待ち惚けの髑髏

吐いても泣いても目は覚めて
この体はまだ肉を纏っている
耳障りな鼓動が鳴り止まない
どれほど黄泉を描いても、この器が渇望する
呼吸を止めれば、それは怒涛のように押し寄せる
芯から来たりて響く責務
こんな騒音の中では眠れないだろう

(遠くの声)

4/15/2025, 12:34:00 PM

あの頃は狭い壇が全てだった
当たる陽なければ世界の終わり
伸ばした爪では割れない硝子の先に
群がる花を睨みながら
きっと同じように咲いてみたかった

出る杭を打つか、上手に接ぐか
箔押しの絆で満足するか
爪を立てて剥がす輩に、手向けられる色などない
星に願いながら見つかる日を恐れた
遠ざかるばかりの崖に唾を吐いて
狂った芝居で冷める頬
叶う夢などありはしない

左足で捏ねて作られた土塊は
乾いて崩れて去っていく
自ら這いずり出た素振りで
幻影に後ろ髪を引かれながら
幼い私を捨てていく
またひとつ、骸を運ぶ花筏
露と消えにし諸恋の夢

(春恋)

4/14/2025, 12:13:53 PM

雲海の向こう、潮の底にて
まだ眠る幼体の鼓動に耳を澄まして
鰭を持たない腕は
奏者のいない砂の舞台で、微かな律を手繰るように
揺れて踠いて、泡に願いを閉じ込める
弾けた音を聞き届けて
不確かな影を、心だけは追い求めて
メアリー・セレストを探し当てて

沈む私は鉛のように
名もなき藻屑と忘れ去られる
紺碧のドレスはすっかり汚れて
それでもあなたを待っている
暗い海底で、群がるセイレーネスが岩礁になっても
天に遍く降る慈雨
あなたの旅の果て
星空を渡る小さな船は、きっと私の下へ辿り着く

けれど私は拒むでしょう
港はあちら、灯台の向こう
終局に湧き出る、警笛を鳴らして
嘘吐きの波濤と気紛れな青鷺が
眠るあなたを引き離す
どうか欠片を手に地上まで

どこかで語られる朧月夜、優しい調べ
寂寥を奏でる貝殻と、泡沫夢幻の浪漫譚
覚えてくれている
それだけでいい
初めから満たされていた
空想を抱いて、私は壊れてしまうけど
廻る潮流に導かれ、きっといつか出逢えるから

(未来図)

4/13/2025, 12:22:58 PM

兵どもが夢の跡
有象無象の血を吸って不遑枚挙の花が咲く
どこからか聞こえる祭囃子
童の駆ける土の下、砕ける骨を如何せん
憂う心は春時雨

どうせ忘れる夢ならば
なんぞ燭を秉て遊ばざる
移ろう命は花吹雪
時代も人も五十歩百歩、踊らにゃ損と花が散る
酔いも甘いも噛み分けて
釣鐘帽子に飾りましょう

千枚の葉が落ちるまで
高歌放吟と歩こうか
泥濘む雨後に天晴れと
ばら撒く血潮が道となる

(ひとひら)

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