小音葉

Open App

雲海の向こう、潮の底にて
まだ眠る幼体の鼓動に耳を澄まして
鰭を持たない腕は
奏者のいない砂の舞台で、微かな律を手繰るように
揺れて踠いて、泡に願いを閉じ込める
弾けた音を聞き届けて
不確かな影を、心だけは追い求めて
メアリー・セレストを探し当てて

沈む私は鉛のように
名もなき藻屑と忘れ去られる
紺碧のドレスはすっかり汚れて
それでもあなたを待っている
暗い海底で、群がるセイレーネスが岩礁になっても
天に遍く降る慈雨
あなたの旅の果て
星空を渡る小さな船は、きっと私の下へ辿り着く

けれど私は拒むでしょう
港はあちら、灯台の向こう
終局に湧き出る、警笛を鳴らして
嘘吐きの波濤と気紛れな青鷺が
眠るあなたを引き離す
どうか欠片を手に地上まで

どこかで語られる朧月夜、優しい調べ
寂寥を奏でる貝殻と、泡沫夢幻の浪漫譚
覚えてくれている
それだけでいい
初めから満たされていた
空想を抱いて、私は壊れてしまうけど
廻る潮流に導かれ、きっといつか出逢えるから

(未来図)

4/14/2025, 12:13:53 PM