咲き乱れる花、唄う川
少し俯いて、差し込む朝日に頭を撫でてもらう
お早う、挨拶は欠かしてはダメ
誰かにそう教わったわ
咲き乱れる花々も、鳥達も
隣家の皆様もご機嫌よう
向かいの家には綺麗なお姉さんが一人、住んでいて
煌めく指輪を付けているのよ
いつか読んだ夢物語、素敵な素敵な約束の証
白い王子様
私のところにも来てくれないかしら
素敵な街なの、素敵な家なのよ
籠を手に持ったら出掛けるわ
私だって、もう子どもじゃない
顔をくしゃくしゃにして追いかけて来たあの子とは違う
そういえば、今日はいないのね
どんな顔をしていたかしら
何の話を、していたかしら
ともあれ今日はあなた、とびきりのお客様
久しぶりのお友達に、優しいこの街を案内したいの
付いてきて、どうか手を離さないでね
逸れてしまえば、小さな私じゃ見つけられない
見上げる、肩越しのサルビア
強い日差しに遮られて、きっと微笑んでいたのでしょう
そう、抱き締めてくれたはずなのよ
私は間で足ぶらり
繋いでいたの、祈ったのよ
あなたでしょう?
あなたなのよね?
(終わり、また初まる、)
それはいつか、燻る私を焼いた光
まだか弱い残滓を覆う
信じて差し出される掌の熱
吹けば消える幻を描いて
殻を与えて閉じ込めた
あなたは船のようだった
隠す腕を振り解く
何度も顔を露わにさせる
恨めば良い、激情が背を押すならば
今は立ち上がり垂れ流せ
血も涙も越えて、あなたは輝く標となる
長い航海もやがて終わるだろう
色彩を取り戻した空の下
あなたは砂漠の片隅で、紛れる一つの粒となる
私の記憶を載せた船は
遠く遠く、彼方へ旅立つ
刻まれた光を忘れない
あなたのことを、ずっと、ずっと
(星)
愛でもいい、恋じゃなくてもいい
蒲公英の丘から飛び降りてみたい
失ってしまえ
突き落とせ
酔って飲み干す涙の味を
爪に食い込む悔いを肴に
舌に焼き付けて、思い知れ
お前は誰だ
飽きて破り捨てる、手垢塗れのフレーズを
空を掻いても毟っても
瑣末なことだ
落ちてみても気持ち悪いだけ
世界は何も変わらない
夢の先が途絶えて久しく
こんな想いを抱えては、ダンデライオンはもう飛べない
(願いが1つ叶うならば)
衝撃、
手の甲を叩く軽い反発
屈する硝子は悲鳴を上げて砕けて
喘ぎ苦しむ細い腕
その声は聞こえない
透明が腐る前に掬い上げる
ごめんね、わざとじゃないの、と呟いて
伏せる目は虚空を見つめる
遠くへ
何処か遠くへ
知らず、握り締める
砕ける
割れて落ちる
あんなに大切にしていたのに
転がれば床を汚す血溜まりとなる
もう帰らない
分かっているけれど、強がって吐く息が震えた
(嗚呼)
廃れた教会、モザイクを這うアイビー
神も悪魔も去った銀雪にて
隠れた二人は指切りを
痩せた鼠だけが知る誓い
走り書きの涙、橙の水
夜が来るよ、蛇の目に怯える夜が来る
小さな牧師は目を閉じる
手を取る二人に祝福を
離さないで、星を紡いで、いつまでも
きっとまた昇る陽よ、彼らを守り賜え
羽ばたく音を聞き届け
夜はまだ寒いけれど、痛みが胸を刺すけれど
今度は同じ言葉を交わせますように
会いに行くから、聞かせてほしい
案外、苦しみは続かない
眠る鼠は微笑んだ
(秘密の場所)