小音葉

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3/9/2025, 11:43:17 AM

衝撃、
手の甲を叩く軽い反発
屈する硝子は悲鳴を上げて砕けて
喘ぎ苦しむ細い腕
その声は聞こえない

透明が腐る前に掬い上げる
ごめんね、わざとじゃないの、と呟いて
伏せる目は虚空を見つめる
遠くへ
何処か遠くへ
知らず、握り締める

砕ける
割れて落ちる
あんなに大切にしていたのに
転がれば床を汚す血溜まりとなる
もう帰らない
分かっているけれど、強がって吐く息が震えた

(嗚呼)

3/8/2025, 11:46:33 AM

廃れた教会、モザイクを這うアイビー
神も悪魔も去った銀雪にて
隠れた二人は指切りを
痩せた鼠だけが知る誓い

走り書きの涙、橙の水
夜が来るよ、蛇の目に怯える夜が来る

小さな牧師は目を閉じる
手を取る二人に祝福を
離さないで、星を紡いで、いつまでも
きっとまた昇る陽よ、彼らを守り賜え

羽ばたく音を聞き届け
夜はまだ寒いけれど、痛みが胸を刺すけれど
今度は同じ言葉を交わせますように
会いに行くから、聞かせてほしい

案外、苦しみは続かない
眠る鼠は微笑んだ

(秘密の場所)

3/7/2025, 11:05:17 AM

我楽多、数多、記憶の花道
人工の星が照らすブリキの街
空はとっくに落ちたけれど
いつでも明るい我らが故郷さ

錆びたあの子は今日も歌う
遠い昔の歌姫のように
掠れた声で、情熱を誦じる
胸のポンプは冷たいけれど
雄叫び、喝采、雨のように
鉄の皮も羽衣となる

彼らは間違えた
繰り返し、何度も、何度も
彼らに愛された
初めて見た二つの光を忘れない

街外れの暗闇、汚濁の水鏡
調子外れの音階は
無機質の宙、彼方へと走り去る
ワタシは天国にも地獄にも行けないけれど
祈るように、パイプを鳴らすの

(ラララ)

3/6/2025, 10:37:04 AM

心は知らない、聞こえない
振動を届ける筒がない
けれど花火のように、泡のように浮かび上がって
船より早く、飛行機より遠くまで
小さな私を届けてくれる

知っているかしら
楽園は歪な形をしている
小さな私は傷付いて
泣いて哭いて腫らして弾け
膿んだ希望を引き連れて
轟々と唸る赤い川を辿り、芯に至る

やがて凍り付く、その前に
きっと夢見たことでしょう
天の川、あるいは一面の向日葵畑
それら全てが私であなた
お休みなさい、良い夢を
私が咲き、咲かせましょう

あなたは私
私はあなた
希望の種子を抱いて飛んで
世界全て、染め上げて仕舞うまで

(風が運ぶもの)

3/5/2025, 1:50:26 PM

問い掛ける
時はなく、救いもない
静謐だけが横たわる、忘れられた片隅で

やがて辿り着くセピアの回廊
枯れた木々は罅のように
脳溝をなぞり、蝕み、腐らせていく

いつから此処に
何故、私は
いつまで惚けるのか
分からない、分からない、分からない
閉じ籠る
望まれない選択を否定しないで

放っておいてくれないか
窓越しの鳥のように、私は相容れないモノ
蓋をして、鍵を掛けて、塗り潰して
お願いだから、ねえ、私を見ないで

問い掛けて
塞いだ手に重ねる熱を、微笑みを
許してはならない
迎えてはいけない
待ってなどいない
本当だから、どうか、どうか、揺り起こさないで

(question)

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