震えて揺れる
舞台は炎に抱かれ
振り落とされた彼らの顔をもう思い出せない
戦火に翻る旗
朽ちた剣は誰かの墓標となりて
怒号すら遠く、手繰る糸は導かない
並ぶ誓いは紛い物、記す私は羽より軽く
運命などくだらないと嘆く
あなたの顔をもう思い出せない
黒焦げの希望、一片も残らず
この身、花冠となりて流れましょう
だからどうか、泣かないで
アザミは贈らない
いつか晴れ渡るなら約束を
(一輪の花)
真夜中、よく滑るペン先
苦味を誤魔化してなぞる言の葉
白は染まる、隙間から睨む
綴る形の正誤を問う
綻ぶキャンバスと残骸の海
誰もが願う世界
誰にも望まれない明日
美しいだけの結晶に飽いた舌先
知った顔して噛み砕く
シャンデリアから溢れた炎
やがて灰が降り積もる
差し込む朝日に目を閉じれば
めでたし、めでたし
お帰りはあちら、リンドウの道
一雫の心と青い目を、駄賃に置いてゆきなさい
(魔法)
在りし日の君を覚えている
穿つような雨の中、振り上げた拳を
肩を組んで笑い合った日々、
澄んだ瞳で囁く愛、
全て裏切る紫煙の味を、知っている
こんな日が来なければ良いと願っていた
膠灰に褪せた色が、いつか消えても
斜陽を超えて、嘘だと笑う君を待っていた
瓦礫の下から届けよう
墓無き君へ捧ぐ七色、記憶の大樹を焼いた劫火
今度は遮るもののない世界で、漣を聴こう
(君と見た虹)
例えばこれは最後の瞬き
次の呼吸で点火して
この身が燃えて落ちるとして
流星のように心を裂いて
ひとすじ、傷を残せるのなら
悪くないね、とあなたは笑う
雲のドレスを渦巻いて
銀の瞳であなたは踊る
五線譜を跨いだ足跡は
煙のように、影も残さず
私の願いは叶わない
星になどならなくて良かったのに
身を焼く痛みで帰ってほしかったのに
あなたは地で生まれ、這って育った
神になどならない
神になどならない
私を見て、立ち止まれ
天を嘲り銀を手に取る
(夜空を駆ける)
私は鏡
望まれるまま、笑いましょう、歌いましょう
崖端の彼女を抱き締めて
魚になった彼の為に祈りましょう
私は光、願いの形
救いましょう、施しましょう
賛美の言葉も贖いも、瞼を伝い等しく積もる
妬み嫉みは蜜の味
踏まれた影に口付けを
誰に愛されても
私は独り
破片の刺さる肉は尽き
焦げた臓腑は蠅のよう
私のことを、知っている?
(ひそかな想い)