もしこの世界にひとりきりだったらどうしたい?
「うーん、私は人の話を聴くのが好きだから悲しくなっちゃうな。それにヨーグルトも食べれなくなっちゃうのは嫌だなー。」牛の世話をしている自分を想像してみるがボンヤリとした上辺だけの妄想しか浮かばず、遊牧民の生活は難しそうだ。
「でもさ、ありえない話じゃないよね。例えばさ、朝起きたら誰もいなくて、実は私以外のみんなが遠い銀河からやってきた難民宇宙人で、長い銀河戦争がようやく終結して母星に帰っちゃったとか。」ありえない?あはは、笑わないでよ!
だってさ、毎日想像もできないような発見や驚きがあるのが世界でしょ。私に想像できるようなことは起きる可能性もあるんじゃない?少なくとも潜在的可能性は0じゃない。
そう思うと、果たしてない約束に行くのもいいかもね。実は母の知り合いで今でも交流のある人がいるんだけど、いつでもいいから是非遊びに来てくれって言われてるんだ。社交辞令かもしれないし急に行ったら迷惑かもしれないって思って行動できていないんだけど。そんなこといったら営業マンは大変だよね。
うん、そうだなぁ。とりあえず呼び鈴を鳴らして訪ねてみようかな。迷惑かどうかは顔を見れば分かるだろうし。
…うーん、やっぱりちょっと怖い。営業の人って凄いな。尊敬しちゃう。でも自己成長はコンフォートゾーンの先にあると思うから、何とか飛び出せないかな。
もしかしたら柴犬の像みたいにずっとひとりきりで訪ねてくるのを待っているかもしれないから。
題『ひとりきり』
煌びやかなドレスが何着あっても、スポットライトに照らされなければ、モノクロームな世界でルービックキューブを完成させようとするほど無価値だ。
題『Red, Green, Blue』
門番「次!97番」
呼ばれた人が門の先へと進んでいく。
私は最後まで呼ばれなかった。
門番「最後は君か、24番」
目線を向けながら呟く。
門番「目立った経歴もなし。むしろ空白だらけだな」
なぜ最後まで呼ばれなかったと思う?
私「不合格だからでしょうか?」
そうだ、その通りだ。門番が答える。
「お前以外、不合格だった。おめでとう、合格だ」
お前は他の誰よりも弱かった。それなのに今日まで生き延びてきた。その生存能力の高さ。そして誰に対しても一貫性のある態度と敬意を示す人間性。お前にはまだ生きる価値がある。門番の姿が消えてなくなり、気づいたら点滴と酸素ボンベを取り付けた姿の私が純白の天井を見上げていた。看護婦が慌てて部屋から出ていく。あとで知ったことだが、十年前の飛行機墜落事故で私だけが唯一生き残ったらしい。部屋には消毒液の匂いに混ざって粗挽きのコーヒー豆の香りが漂っていた。
題『フィルター』
同じ趣味や目標を持っていても同じ熱を持つことができない。アンティークの鑑定家のように一歩下がった位置から玄人ぶった態度の冷たい眼差しを向けてしまう。私の考える仲間は、政治家に投票する一票よりも重く、三国志の桃園の誓いのように神聖なものだ。その道の先駆者のごとく独善的で独りよがりな審美眼を併せ持つ厄介者だ。誰よりも仲間が欲しいと恋焦がれながら、噛みついて拒絶することしかできない。本当は「大丈夫だよ」と優しく撫でてほしいのに。
題『仲間になれなくて』
オレンジ色のレインコートが散歩を待ち侘びた子犬のように明るい色彩を放っており、木製の持ち手が剥がれてボロボロになった傘は周囲に埋もれることなく老紳士のように穏やかに出番を待っていた。さて今日は誰と出かけようか。
題『雨と君』