たくちー

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12/10/2025, 7:13:26 PM

 炬燵に衣服を入れて温めておくような、チチチチっぼっという音をたてて稼働する石油ストーブにお尻を向けて待ち侘びるような。かつて少年時代を過ごした思い出の家の記憶。階段が急勾配で手摺りもなかったから何度も転げ落ちた。祖母の部屋には団子虫や蛙や蝙蝠などを見かけたし、台所の近くからはチューチュー鳴く鼠の存在を感じた。自室はタバコのヤニで黄ばんでおり、兄の部屋より2畳ほど狭かった。それでも家族としてバランスの取れた素敵な生活だった。今の家は誰からも羨まれる。だけど、"前の家に戻りたい…あの頃に戻りたい"と叶わない過去に縋りつく。家族と過ごす時間は前よりずっと多いはずなのに、"ぬくもりの記憶"が存在しない。悲嘆的な感情の牢獄で、いつの間にか誰かに"ぬくもりの記憶"を与えてあげるような年齢になっていた。



題『ぬくもりの記憶』

12/9/2025, 7:14:08 PM

 凍える指先は爪に縦線が入りパックリ割れた皮膚は黄ばんでいた。ビタミン不足な末端組織に栄養が行き渡っておらず、指紋認証も正常に作用しない。五臓六腑への支援が最優先であり、凍える指先は常に酷使されている。
いつだって切り捨てられるのは端っこからだ。



題『凍える指先』

12/8/2025, 7:07:30 PM

 食事はいつも16時40分、苦しみながら僅かな食事を必死に食べるが、食べ過ぎてしまったのではないかと明らかに矛盾する想いを同時に持つ。過去の食べれていた頃の記憶と現在の食べれない記憶が混ざり合い、二つの矛盾した苦しみが重なりあう。誰にも理解されない。解放される為には布団に横になるしかないと、それしか考えられない。そうした苦しみの中に連続した舌打ちの音が響く。癖なのか歯に引っかかっているのか知らないが、その音に駆り立てられるように歯磨きを済ませ、これ以上は耐えられないと午後6時に布団へ潜る。自室のロフトへの梯子を何度も叩いて不満を露わにする。
明日になったら雪原の先へ行かなければ。ガソリンを詰めて図書館へと本を返却しなければならない。想いばかりで身体は運転するには危険だとアラームを発している。こんな生活がいつまで続くのか?雪原は山となっており終わりが見えない。



題『雪原の先へ』

12/7/2025, 7:23:15 PM

 午前3時半、家の近くをジョギングする。冷たい外気は自身に罰を与えるようで心地よい。白い吐息は街灯に照らされ輝き、澄んだ空気が肺を満たした。だが玄関を通り過ぎるとモワッとした空気が肺に流れ込む。普通なら家に入った瞬間に"暖かい"と喜ぶのかもしれないが、独房に戻されたような鬱蒼とした気分になる。

白い吐息が溢れるのは、いつも自宅に戻った時だ。


題『白い吐息』

12/6/2025, 7:06:45 PM

 チロチロと燃えるランタンに憧れるんですよね。まあ映像でそれっぽく見せる商品とかもあるんでしょうけどね、やっぱり本物の火とは違うって感じがするんです。なんていうか心が鎮まる感じ。でも実際試そうとすると色々あるでしょう?家の中で使うなとか危険だとか。ボクはただ炬燵に入って湯たんぽを持って、それでボーっとランタンの火を見ていたいだけなんだけどね。それがいつまでもできなくてモヤモヤして、消えない灯りみたいなんです。やっぱり一人じゃないとしがらみが多くて嫌になるね。



題『消えない灯り』

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