炬燵に衣服を入れて温めておくような、チチチチっぼっという音をたてて稼働する石油ストーブにお尻を向けて待ち侘びるような。かつて少年時代を過ごした思い出の家の記憶。階段が急勾配で手摺りもなかったから何度も転げ落ちた。祖母の部屋には団子虫や蛙や蝙蝠などを見かけたし、台所の近くからはチューチュー鳴く鼠の存在を感じた。自室はタバコのヤニで黄ばんでおり、兄の部屋より2畳ほど狭かった。それでも家族としてバランスの取れた素敵な生活だった。今の家は誰からも羨まれる。だけど、"前の家に戻りたい…あの頃に戻りたい"と叶わない過去に縋りつく。家族と過ごす時間は前よりずっと多いはずなのに、"ぬくもりの記憶"が存在しない。悲嘆的な感情の牢獄で、いつの間にか誰かに"ぬくもりの記憶"を与えてあげるような年齢になっていた。
題『ぬくもりの記憶』
12/10/2025, 7:13:26 PM