5/6「明日世界が終わるなら」
「明日世界が終わるなら、何したい?」
「タバコ吸いてぇなぁ…」
「吸ってるじゃん」
もうじき落ちてくるはずの巨大な赤い彗星をベランダで眺めながら、そんな何気ない会話。
(所要時間:3分)
5/5「君と出逢って」
君と出逢って、僕の世界は変わった。
君は教えてくれた。破壊の楽しさ。すべてを壊すことの素晴らしさ。そして僕にはその力があること。僕は夢中になった。
君と出逢って、僕の住んでいた世界は―――文字通り、滅び去った。
(所要時間:3分)
5/4「耳を澄ますと」
何かが聞こえる。じっと耳を澄ます。
(楽になろうよ…)
(一緒に眠ろう?)
「おい」
彼の呼びかけにはっと我に返る。
「声が聞こえるのか? そいつらは過去にここで死んだ奴らだ。囚われるぞ」
吹雪はひどくなる一方だ。探索は続く。
(所要時間:4分)
5/3「二人だけの秘密」
庭師の少年は見た。池のほとりで夫人が魚と話しているのを。
少年に気づいた夫人は、唇に指を一本当てる。
「これは二人だけの秘密よ。よろしくて?」
こくこく、と少年はうなずくしかできなかった。
(所要時間:3分)
5/2「優しくしないで」
「優しくすんなよ…。惚れちまうだろ」
「何言ってるのお前」
「冗談言ってる」
「いやわかるけど」
ずっと前に優しくされてから、惚れてるのは俺の方なんだよな。
(所要時間:4分)
5/1「カラフル」
「カラーひよこってすっかり見なくなったよね」
(まあ、動物愛護精神的にまずかったんやろな)
「結局、羽毛生え変わって普通の白いニワトリになっちゃうらしいけどね」
(せやな)
「アンタ白くならなかったよね」
(そら、ヒヨコやなかったからな)
あたしの部屋の鳥かごには、赤と黄色の色鮮やかなフェニックスがいる。
(所要時間:5分)
4/30「楽園」
楽園。蝶が舞い、花が咲き乱れる、そんな場所だと思っていた。だが。
「何だこりゃ…」
水辺には鳥、大地にはウサギがひしめき、足の踏み場もない。
そこに、ヤツらが群れをなしてやって来た。
どうやらオレがたどり着いたのは、肉食動物の楽園らしい。さて、オレはエサか仲間か?
(所要時間:5分)
4/29「風に乗って」
風に乗って、どこまでも行こう。翼を広げて、どこまでも。
「さあ、そろそろ降りるよ」
「え。まだ飛んでたい」
「だめ。ここより南には過ごしやすい湖がないのだから」
父さん母さんの後を追って、湖に降りる。兄弟たちはみんな無事だ。
「さあ。ここで冬を越すよ。いっぱい食べてね」
「はーい」
僕たちは渡り鳥。春になったら、また風に乗って、北へ向かう。
(所要時間:4分)
4/28「刹那」
刹那の間に、全てが消えた。
ただ私一人が、ここに漂っている。
「地球はどうなったんだ…?」
『消えたよ。神がそう望んだから』
「それは、どうして?」
『忘れたのか? …そうか、そういう事か』
『君が、神だったからだよ』
(所要時間:3分)
4/27「生きる意味」
物事に意味を、つまりは何らかの正解を、求めたがるのは人間のサガだ。
生きることに意味などありはしない。生はただそこにあるだけだ。種の保存? それは生きる意味にはつながらない。
強いて言うならば、己の道を全うするのが「生きている人間の」生きる意味、なのだろう。
人間も、生きることも、難儀なものだ。
(所要時間:3分)
4/26「善悪」
「やっていい事と悪い事の区別もつかないのか?!」
年端もいかぬ子供にそう怒鳴りつけるあの人間は、そもそもその子供に善悪を教えていない。怠惰、責任転嫁、自制心の欠如。悪行に3ポイント。
さて、あの人間が地獄に落ちないためには、あと何ポイントの善行が必要かな?
(所要時間:4分)
4/25「流れ星に願いを」
「あっ、流れぼ」
「はい時間切れ」
ぷくーっと頬をふくらませる。
「流れ星消える前に3回願い事言うとか無理がある」
「願い事は叶わないものだってことだね」
「誰だよこんな不毛な言い伝え作ったの」
「ロマンが過ぎるか意地悪が過ぎる人かな」
「…流星群は全部で流れ星1回にカウントされないかな」
「さあ?」
不毛だ。箒星の話なのに。いや箒は毛じゃないか。
願いを叶わせる気がないなら、夢を持たせないでほしい。結局、地道な努力をしろってことか。
(所要時間:8分)
4/24「ルール」
「それは曲げられないんだよ」
「どうしてですか」
「ルールだからね」
先輩は事もなげに言う。
「魂を刈り取らなければ、人は無限に殖えて地上にのさばってしまうだろう?」
「でもあの子は…」
「特例は許されないよ」
そんなルール、くそくらえだ。鎌を投げ出して飛び去る。
「…やれやれ。神様はそこにもルールを設けてくれないものかね。また天使が殖えてしまうよ」
(所要時間:5分)
4/23「今日の心模様」
今日の心は荒れ模様。友達に離縁を告げられたから。
ずっとずっと仲がいいと思ってたのに、向こうにとってはそうじゃなかった。
なんでなんでなんでなんで。不満があるならもっと早く言ってくれればよかったのに。
いや、言われてたかな。言われてたような気もするな。
落ち込む。思い出して怒る。悲しむ。
今日の心は、やたらめったら忙しい。
(所要時間:4分)
4/22「たとえ間違いだったとしても」
君を永遠に生かしたい。君を私と同じ存在にしたい。
たとえそれが間違いだったとして、私が後悔することはないだろう。
たとえ君が私を恨んでも、私は後悔しないだろう。
傲慢? 結構。私は私の信念を貫く。それがたとえ間違いだったとしても。
(所要時間:4分)
4/21「雫」
ぽたり。ぽたり。
こめかみから頬、顎を伝った、血雫が落ちる。
「もう、やめましょう。あなたは僕には勝てない」
「そう、かな」
「次の一撃で決めます」
「…決められるのかい?」
「ええ」
迷いのない瞳だ。
オレの息子。小さな頃には膝に甘えてきた。だが闇に魅入られた。
「さようなら」
「嫌だなぁ」
こんな別れ方は、嫌だなぁ。
そう思ったら、血と別の雫が、ぽたりぽたりと落ちた。
(所要時間:7分)
4/20「何もいらない」
ごはん。いらない。
お風呂。いらない。
おやつでご機嫌を取ろうとしても、見抜いているのか、いらない。
パパもいらないらしい。おいおい。
でもママはいるんだろ?
……だろ?
「ただいまー」
ほらな。帰ってきたママを、わがまま子犬は尻尾を振って迎えに行った。
(所要時間:5分)
4/19「もしも未来を見れるなら」
もしも未来を見れるなら。
…いや、やっぱり見たくない。
戦争と経済破綻と汚染、個人的な話なら間違いなくボケて金もなく捨てられる、そんな未来しか思い浮かばない。つらい。
もしも未来を見れるなら、希望のある未来を見たい。
そのために今できること―――を考えられるくらいなら、こんな悲観的な未来予想はしないのだけど。
少しだけ、何かを担う気になってもいいな。
(所要時間:6分)
4/18「無色の世界」
湖の底に、都がある。
宮殿の壁も屋根も、触れでもしなければわからない。水に溶けるような無色。
時たま日差しが入ると、波に揺られる光にきらりきらりときらめく。
湖の底に、都がある。
もう誰も住まうことのない、古い古い都が。
(所要時間:4分)
4/17「桜散る」
番号が、なかった。
ずらりと並んだ合格者の受験番号。何度たどっても、私の番号はなかった。
周りでは合格した受験生たち―――いや、もう「受験生」じゃないのか。喜びの声を上げたり、胴上げをしたり。私はそっとその場を離れた。
春風に吹かれながら遠回りして歩く帰り道、見事な桜を見かけた。風にはらはらと舞い散る花びら。
はらはらと、涙がこぼれた。
来年も頑張ろうと思えるまで、少し時間がかかりそう。
(所要時間:5分)
4/16「夢見る心」
冒険者になりたい。
この村を旅立って、仲間を見つけて。洞窟や遺跡を探索して、まだ見ぬ宝を見つけて。
魔王なんていないけど、人助けを重ねて強敵を倒して、いつか勇者と呼ばれる存在になりたい。
明日、僕は12歳になる。夢見る心は、止まらない。
(所要時間:4分)
4/15「届かぬ想い」
「にゃあ」
細く開けた窓から入ってきて、黒猫が煮干しをねだる。
すっかり居着いてくれた。ガツガツと煮干しを貪るその背中に、そっと手を伸ばす。
触れた途端、するりとすり抜け、窓に飛び乗って去っていく。
ああ、届かぬ想い。
(所要時間:4分)
4/14「神様へ」
神様
いつもお世話になっております。
常日頃見守っていただき、時に試練を与えていただき、あるいは願いを叶えていただき、大変恐縮です。
お疲れの出ませんよう、どうぞご自愛下さい。
今後とも、何卒よろしくお願い致します。
(所要時間:5分)
4/11「快晴」
快晴!
すっきりと晴れた気持ちのいい空は、どこまでも続いていそうだし、僕はどこへでも歩いて行けそうだった。小鳥は盛んにさえずり、暖かい風が心地よい。旅立ちにはこれ以上なくぴったりの日だ。
さあ、世界を救いに行こう。
(所要時間:3分)
4/10「遠くの空へ」
悲しいのは、哀れに思っているからかも知れない。多くの場合、多分、その対象は自分。
泣いている場合じゃないのがわかっていれば、泣かないはずだ。でも涙があふれてぼろぼろと頬を伝う。前向きになんてなりたくない。
30分ほど泣いただろうか。少し落ち着いた。
立ち上がる。そろそろ、手放してもいい頃だ。
涙をぬぐい、窓を開ける。そして、この悲しみを―――遠くの空へ、投げた。
(所要時間:5分)
4/9「言葉にできない」
あなたへの気持ちは、言葉にできない。
嫌悪。呆れ。侮蔑。悲しみ。反感。憎しみ。
それでも今、私は言おう。
「今まで育ててくれて、ありがとうございました」
父は、微かに笑ったようだった。
(所要時間:4分)