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4/21「雫」

 ぽたり。ぽたり。
 こめかみから頬、顎を伝った、血雫が落ちる。
「もう、やめましょう。あなたは僕には勝てない」
「そう、かな」
「次の一撃で決めます」
「…決められるのかい?」
「ええ」
 迷いのない瞳だ。
 オレの息子。小さな頃には膝に甘えてきた。だが闇に魅入られた。
「さようなら」
「嫌だなぁ」
 こんな別れ方は、嫌だなぁ。
 そう思ったら、血と別の雫が、ぽたりぽたりと落ちた。

(所要時間:7分)


4/20「何もいらない」

 ごはん。いらない。
 お風呂。いらない。
 おやつでご機嫌を取ろうとしても、見抜いているのか、いらない。
 パパもいらないらしい。おいおい。
 でもママはいるんだろ?
 ……だろ?
「ただいまー」
 ほらな。帰ってきたママを、わがまま子犬は尻尾を振って迎えに行った。

(所要時間:5分)



4/19「もしも未来を見れるなら」

 もしも未来を見れるなら。
 …いや、やっぱり見たくない。
 戦争と経済破綻と汚染、個人的な話なら間違いなくボケて金もなく捨てられる、そんな未来しか思い浮かばない。つらい。
 もしも未来を見れるなら、希望のある未来を見たい。
 そのために今できること―――を考えられるくらいなら、こんな悲観的な未来予想はしないのだけど。
 少しだけ、何かを担う気になってもいいな。

(所要時間:6分)



4/18「無色の世界」

 湖の底に、都がある。
 宮殿の壁も屋根も、触れでもしなければわからない。水に溶けるような無色。
 時たま日差しが入ると、波に揺られる光にきらりきらりときらめく。
 湖の底に、都がある。
 もう誰も住まうことのない、古い古い都が。

(所要時間:4分)

4/22/2024, 8:11:06 AM