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3/28/2024, 10:45:09 AM

11.見つめられると

なんだか悪いことをした気分になってくる。クラス内の人間たちが私に目を向け、そのまま視線を変えない。私は意のままに動けず、他人に動くということを妨害された。硬直したまま、どこに目を向けていいか分からず、ただひたすら時間が過ぎることを待っていた。しかし、ついにしびれを切らしたのか教諭は私を開放し、別の人間を拘束状態にした。教諭の言葉とともにまた誰かが犠牲となる。指名された人間は私と違って声を出して真実を述べた。その瞬間、その人間が束縛から開放されるとともに、まわりの地位を確かなものにした。
ー頭の中でこのようなことを想像する私は異常だろうか。自分の意識に過ぎない、他人を気にしすぎているということは十分承知している。だが、自分を貶すのに慣れてるため、この思考から脱出できない。私自身の思考がおかしいのか、私を拘束する仕組み、それに従う人間がおかしいのか。そんな考えが衝突し、今日も門を出る。

3/22/2024, 10:26:35 AM

10.バカみたい

私達は人体パフォーマンスを見に、遊園地へ向かった。
ワクワクしている間に遊園地へ着くと、私はスマホを忘れたことに気がついた。だが、家族と楽しむ以上、そんなのは必要なかった。ついに始まろうとしている。大勢の客が詰めかけ、期待が最骨頂に達した時、ある1人の男性が登場し、棒のようなものに捕まり、回転をしていた。まわりの民衆が歓声を上げたり、目を輝かせているのに対し、私は目の前の演技の素晴らしさが微塵もわからなかった。ただ、肉の塊が重力に抵抗したり、しなかったりしているだけではないかと複雑な気持ちになった。彼の滑稽な姿は私の期待を冷ませ、民衆の心を釘付けにした。民衆が感動する理由も自分がなぜそれに感動できないのかも分からず、その場にいることを苦痛に思い、少し離れた和式便所に何の用事もないのに足を運ぶのであった。

3/21/2024, 10:17:11 AM

9.ふたりぼっち

私は親しい友達が彼ぐらいしかいなく、学校に着けばすぐさま彼のもとへ向かい、言葉を交わす。私の唯一の幸福だった。まわりからよく'ふたりぼっち'と揶揄されることがあったが、そんなことは気にしない。それくらい私と彼は強い絆で結ばれている。そして今日も彼に話しかけた。「昨日のテレビ見た?面白かったよね。」彼は微笑みながら私に返答し、少々満足気な面をしていた。

3/14/2024, 10:49:08 AM

8.安らかな瞳

テーマパークを楽しんだ私達は祖父母にお土産を買うところだった。母のカバンから軽快な音がなり、母は「先に見ておいて」とだけ言って携帯を手に取った。私達はそんなことも気にも止めないまま心を踊らせてお土産を見ていた。しばらくして母は青ざめた顔をして私達のところに来た。「じいちゃんの命が危ないって」。私は母に同情するように顔を青くしてその事実に反応した。正直、祖父は以前から体が弱く、いつ亡くなてってもおかしくなかった。そう思いつつ、不安な気持ちがこみ上げてきた。幸いなことに、このテーマパークから祖父の病院までは数kmほどであったのでなんとか心を落ち着かせようとした。買い物中の妹の手を取って車へ走った。妹は何が起きたかわからないまま買い物を中断されて不満なのが伺える。そんな感情をいったん放っておいて私達は車に乗って病院へ向かうことにした。妹は慌てふためいていたが、私が事実を伝えると悲しみをあらわにして沈黙を続けていた。そんなことをしているうちに病院へ到着した。祖父の病室の番号を確認して急いで駆けつけた。祖父はくたびれたような様子で天井を見つめていた。私達が来ても驚きも嬉しさも表現せず、ただ死を待っているだけだった。もうどうしようもなかった。私たちに人の命を扱うことなどできない。眼の前で力尽きていく祖父に私は何もできない事を悔やみ、手を握った。ほんのり温かい手で平常心を保ちつつ、私は祖父の生きている姿を目に焼き付けた。しばらくして、点滴の機械が鳴りだした。ピ、ピ、ピーーィ。その機械には楕円が表示されており、その楕円が私達にぽかりと空いた穴を表しているようだった。そして、祖父は目を閉じ、永眠した。私達は静かに涙を流し、生前の祖父の瞳を思い出す。とても苦しそうな瞳だった。いつ襲ってくるかわからない敵とひたすら戦っていた。私達には想像もできないような戦いが祖父の体で繰り広げられていた。それでも祖父は強靭な敵に勝つことができず、苦しい顔をして瞳を閉じた。でも、私には瞳を閉じるたった数秒間、安らかな顔をしていたように思えた。その顔は人生に対する満足感と私達の幸福を願うような表情であった。私はその表情を見て安堵しつつも、祖父の命を途絶えさせた敵を恨んでいる。

3/10/2024, 1:14:04 PM

7.愛と平和

私は彼女のことを愛している。彼女も私のことを愛している。とても最高の構図である。性の違う人間が愛し合って幸せな時を過ごす。いいじゃないか。理想的ではないか。平和ではないか。ただ、愛というものがプラスの作用だけをもたらすのではない。愛し合っている2人を見て、苛立ちを募らせる人やいても立ってもいられなくなる人などが存在する。美しい構図が平和だけで満たされているという保証はどこにもない。どこかでそれを羨ましがる人や邪魔をしようとする人が一定数いるのは承知している。そう考えながら私は今日も彼女を愛す。誰が私達のことを羨ましがろうが、気にしない。殴りにかかろうが、その関係を終わらせる奴が登場しようが私は目の前の女性を愛す。そして死ぬ間際に彼女が私を気にしてくれていたらそれで私の任務は果たせたことになる。そして、平和が壊されようと、私は愛という抽象的なものを体現するまで愛し続ける。

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