最後まで君を騙してしまった。
自分をよく見せたいという情けない我欲が先行してしまった。
私を今まで愛してくれてありがとう。
そして、そんな君を私は最後まで愛せなかった。
最後にこう言いたい。
ありがとう、ごめんね。
12.理想郷
私が新転地に着く頃には、後悔の念は消えていた、と言いたいところだが、そうはいかなかった。
昔の思い出が鮮明に蘇ってきて、心が締め付けられる。人間関係が終了して、景色がシャットダウンしていく。
もう戻れないことは分かっているけれど、どうしても故郷のことばかり思ってしまう。これからこの地でうまくやっていく自信がないのに加え、あの地の哀愁が重なり合う。もはや、依存と言ってもいいだろう。
私はその思考から抜け出すことができず、このまましばらく苦悩を感じた。
11.見つめられると
なんだか悪いことをした気分になってくる。クラス内の人間たちが私に目を向け、そのまま視線を変えない。私は意のままに動けず、他人に動くということを妨害された。硬直したまま、どこに目を向けていいか分からず、ただひたすら時間が過ぎることを待っていた。しかし、ついにしびれを切らしたのか教諭は私を開放し、別の人間を拘束状態にした。教諭の言葉とともにまた誰かが犠牲となる。指名された人間は私と違って声を出して真実を述べた。その瞬間、その人間が束縛から開放されるとともに、まわりの地位を確かなものにした。
ー頭の中でこのようなことを想像する私は異常だろうか。自分の意識に過ぎない、他人を気にしすぎているということは十分承知している。だが、自分を貶すのに慣れてるため、この思考から脱出できない。私自身の思考がおかしいのか、私を拘束する仕組み、それに従う人間がおかしいのか。そんな考えが衝突し、今日も門を出る。
10.バカみたい
私たちは人体パフォーマンスを見に、遊園地へ向かった。
ワクワクしている間に遊園地へ着くと、私はスマホを忘れたことに気づく。だが、家族と楽しむ以上、そんなものは必要なかった。
ついに始まろうとしている。大勢の客が詰めかけ、期待が最骨頂に達したとき、ある1人の男性が登場した。棒のようなものに捕まり、身体を回転させている。まわりの民衆が歓声を上げたり、目を輝かせていたけれど、私はその演技の素晴らしさが微塵もわからなかった。ただ、肉の塊が重力に抵抗したり、しなかったりしているだけだ、と複雑な気持ちになった。
彼の滑稽な姿は私の期待を冷ませ、民衆の心を釘付けにする。民衆が感動する理由も自分がなぜそれに感動できないのかも分からない。この場にいることを苦痛に思った。そうして、何の用事もないのに、少し離れた和式便所に足を運んだ。
9.ふたりぼっち
私は親しい友達が彼ぐらいしかいなく、学校に着けばすぐさま彼のもとへ向かい、言葉を交わす。私の唯一の幸福だった。まわりからよく'ふたりぼっち'と揶揄されることがあったが、そんなことは気にしない。それくらい私と彼は強い絆で結ばれている。そして今日も彼に話しかけた。「昨日のテレビ見た?面白かったよね。」彼は微笑みながら私に返答し、少々満足気な面をしていた。