Q 貴方は愛があれば何でもできると思いますか?
A 思いません。
Q どうしてですか?
A どうしても何も、できないものはできないんですよ。余程大きな力や意志を持った人なら兎も角、大抵は難しい。事実に理由はありません。
Q なるほど。では、貴方自身はどうですか?
A ? どういう意味でしょう。
Q 貴方は先程「大抵は難しい」と仰いましたが、同時に例外があるような発言をなさいました。では貴方自身はどうなのだろう、という趣旨の質問です。
これは私個人の興味ですのでお答え下さらなくとも構いません。勿論記事にも書きませんのでご安心下さい。
A なるほど、ご丁寧にありがとう。そうですね……うん。私も難しいと思います。
Q 理由を伺っても?
A ええ。私は───────
▶愛があれば何でもできる? #72
目の前の顔はぽかんとおおきく口を開けた。
いったい何を考えているのかよく分からない濁った瞳とわずかに尖った輪郭線、感情も厚さもうすい唇、血色が良いとは表し難いしろい顔。目下に鎮座する隈を見るに重度の寝不足らしい。
それをじいっと見つめて、ふ。と、己が今いる場所を思い出す。
ここは───そう、自宅の脱衣場。
あれ。じゃあ、だれ?
刹那的乖離のち暗転。
その間は、実にたったの三秒にも満たないものであったのである。
▶刹那 #71
あんたが手に入るんなら、その他は何もいらない。
君の目を見つめると、どうも死にたくなる。
自分が汚れた存在のように感じて逃げたくなるのだ。
そりゃあぼくも君も人間なんだから多少は汚れているものだけど、どうも君はまっさらな様な気がして、手を出せないどころか遠くから眺めるのもつらい時がある。
それでも君は〝友人〟だと言う。
ね、君は解っているのかな。
君のその無邪気さで、ぼくが余計にみじめな気持ちになること。
優しさだけじゃ救えないモノがあること。
苦しくて苦しくてどうしようもないのに、それでも君を守りたいと、守られたいと離れられない存在があることを。
それを知っていて、君はそうして肩を組むの?
▶君の目を見つめると #69
『最後のみんなの笑顔がステキ! ドキドキもハラハラもあってとても面白かったです。連載お疲れ様でした』
コメント欄を開いていちばんに目に入った文章に首を傾げる。
そういう評価を受けるようなものだったかな、これ。
画力も、ストーリーも、キャラクターもなんだかイマイチで。すこし検索すればもっとずっと素晴らしい作品がゴロゴロと転がっているだろうこのご時世に、どうしてこんな、駄作といって差し支えないような漫画もどきに称賛の声が送られるのか。
画面をスワイプしていく。称賛は消えない。お疲れ様でした、面白かったなど、やはり明るいコメントのほうが人気のようだ。
とあるコメントで、ふと、手が止まった。
『俺、この作品、正直好きじゃなかったんだよね』
そりゃそうだ。その言葉を待っていたんだ。
『初めてみた時、絵もストーリーも変にかぶれてる感じがして、好きじゃないなあって。どうして自分がこれを見てるのか分からなくなった』
でも、とコメントは続く。
私はおもわず目を見開いた。
『でも、なんでか読むのを止めようとは思わなくって。んで様子を見てたんだけど、読み進めれば進めるほど伏線が回収されてくし、コマ割りとかすごい見易くなってって。んで、結局ここまで読んじゃった。今では読みきれてよかったなって思うよ。
何様だよって感じになっちゃったけど、先生、連載お疲れ様でした。ここまで逃げずに描き上げてくれてありがとう。この作品と、あなたと出会えて本当によかった』
〝次回作も楽しみにしています〟
その一文で締め括られたそのコメントは、下から二番目のところにあった。
大粒の涙がこぼれる。こんなにもあたたかい言葉をかけられたのは初めてで、胸の辺りがひどく苦しくて、それ以上にぽかぽかと熱を帯びている。
スマホを胸に抱いて、声に出してみた。
「こちらこそ、ありがとう」
また彼らと出会うために頑張ろう。
さあ、次はどんな話にしようかな。
▶ハッピーエンド #68