いくら目をこらしてもゴールは見えないし
手を伸ばしたところで指の先すら掠めない。
だけど、私だってもういい歳じゃないの。
グズグズしないではやく決めなくちゃ。
だいすきなこの場所から
離れる勇気を。
あたたかなこの夢が醒める前に
その頸に手を掛ける覚悟を。
▶夢が醒める前に #67
円くておおきな黒曜石に星が宿る。
憧れの色を帯びたそれは、やさしい輝きを湛え、じいっとこちらを見ていた。
これ以上見ると汚してしまいそうで、見てはいけないと思うのに、どうしも目が離せない。
不意に、やわくうつくしく輝くそれを、キタルファのようだと思ったのは何故だろう。
▶星が溢れる #66
平穏な日々とはあって当たり前のものなのだと、そう信じて疑わなかった。そうではないと理解したのは、奇しくもあの地獄を体感してからだ。
彼奴は私から全てを奪っていった。家も、家族も、友人も、温もりも、それら全てを等しく消し去ったのだ。
普段の穏やかさを忘れたように狂い、うつくしいマリンブルーを真っ黒く焦がしながらこちらに躍り掛かる姿は、瞼の裏に鮮明に残っている。
十数年経った今となっては、家族や友人との会話も、あれだけ睨み合っていた上司とのいざこざですら遠い記憶の向こうで、ひどく懐かしい。
あそこから得られたものも少なくないが、如何せん失ったものが多すぎた。
私は未だに海に近づけないままでいるのに、世界は刻一刻と進んでいく。私は焦る。一人だけ世界のどこかに置いていかれているみたいで寂しくて、さらに焦ってミスをして……。そんなことを繰り返しながら日々を乗り過ごしている。
この胸の穴がいつ塞がるのか私にはわからない。そもそも塞がるかどうかすら怪しい。
だけど。
それでも私は、あの日常を──あの日常に限りなく近い幸福を目指して明日も生きていくのだろう。
それが残された私にできる、唯一の鎮魂歌だと思うから。
▶平穏な日常 #65
I love him. But he loves you.
Do you understand what this means?
▶Love You #64
「お前の同情なんか要らねーよ」
そう言って突き飛ばした躰は
驚くほどに薄く、遠くに跳んだ。
▶同情 #63