アイツが消えたこの場所で
俺もいつか消えてやるんだ
▶この場所で #62
君はどこにも書けないことをした。
それは、日記にも書けないことで
インターネットにも書けないこと。
ぼくと君、二人だけの秘密。
絶対に内緒にしなくちゃいけない。
ぼくは誰にも言えないことをした。
それは、大人にも話せないことで
笑いの肥やしにすらならないこと。
ぼくと君、二人きりの秘密。
他のひとは知らなくていいからね。
なのでぼくは
ひとまず日記にしたためることにした。
君は
きっと誰かに相談しようとするだろう。
それでいいのかもしれない。
それが正解なのかもしれない。
だけど、──嗚呼、悔しいなあ。
それはきっと、同じ秘密を抱えるのに
相応しくないと思われること。
だからぼくは、日記に記す。
忘れられない為に、したためる。
今日もぼくは机の鍵を開けて
古めかしいハードカバーの日記帳を取り出して
愛用のペンを持つ。
さて、何から書こうかな。君との秘密を。
▶どこにも書けないこと #61
細い針のしとやかな声。コッコッ。
その次に細い針はカチ、コチ、カチン
最後にいちばん太い針がカツンと踊る。
軽やかなタップダンスみたいな音音。
くらぁい夜闇の中に染み渡るそれらは
私のたいせつな子守唄。
▶時計の針 #60
人間は皆、広いようで狭いこの世界の歯車のひとつでしかないのだと知った。あんなに無下にしていた存在にすら、ひとたび呑まれてしまえば何の抵抗もなく事切れてしまう、小さくてか弱い歯車のひとつ。
(ああ、それでも……)
貴方にはいつまでも私を憶えていて欲しい。名前を、声を、言葉のすべてを忘れないで、心の隅でもいいから貴方の中のどこかで平穏に過ごしたい。唯そう願っていた。
だけど、記憶というものはひどく無情で。決して忘れないと誓ってくれた貴方も次第に私を忘れていく。声から始まり、表情、手癖口癖、好み──今では名前もうすらぼんやりとしている頃だと思う。
毎年、勿忘草の花を持って墓参りに来ることですらも、いつかは忘れてしまうでしょう。
それは……きっと、寂しいだろうなぁ。
未だ貴方の記憶のどこかに私が居るなら、どうか今すぐ勿忘草を一本だけ持ってお墓に来て。そして私にサヨナラを言わせて頂戴な。
▶勿忘草 #59
喉元までせりあがった言葉を飲み込む。
だって貴方には、いとしい恋人がいるじゃないか。
▶ I LOVE... #58