「優しさって何だと思う?」
あなたは私にそう問いかけた。
君は厳しくしすぎないところが素敵だけれど、そうして何でもなぁなぁにすることが優しさじゃないんだよ。
そう言うするあなたの表情は慈愛で満ちていて、何故か悲しげで、険しくて……感情でいっぱいなそれを正面からじぃと見つめる。
「もう、ちゃんと私の話聞いてるの?」
そんな問いににっこりと笑えば、あなたは呆れたように頭を撫でてくれた。
そんなことしないでさっさと私を切り捨ててしまえばいいのに、と思う。きっと彼女自身もわかっているはずだ。なのに捨てないなんて、愚かなひと。
やっぱり、あなたほど優しくて親切なひときっとこの世にあなたしか居ないのだわ。
唯一のあなた、いとしいあなた。世界でいちばんあなたのことを愛しているわ。
目の前のいとしいひとに、私は「にゃおん」と肯定の声を上げた。
▶優しさ #57
嫌なことがあった日に飲む酒は最高だが、それよりはるかに価値があるもんを、俺は知っている。
プルルル……、カチャ。
少し長めのコール音が鳴りやんで、
『あ、もしもし?』
と、あんたが声を出す夜。
「もしもし。今日も元気そうでつまんねぇな」
『なにおぅ!?』
あんたにとっちゃなんでもなくても、俺にとってみれば他のなににも堪えがたい夜だ。
▶特別な夜 #56
初めて見かけたときからすこし不安定なところがあってヒヤヒヤすることも少なくなかったけど、それでも光と希望で満ち溢れていた。
あなたのつくりだす独創的な世界が大好きで、それと同時におなじクリエイターとして尊敬していた。今でも、ふとした瞬間に誕生日プレゼントと称して送られたイラストを見返しては元気を貰う。
だけど、……ああ、あなたは私を置いていった。
ある夏から弱音を吐くことが増えて、八月の中旬、帰らぬ人となってしまった。
知らせを受けた時、私は泣けなかった。やるせない気持ちでいっぱいで、おめでとうと言うべきか、どうしてと言うべきかわからなくて。
ただ、津波のように寂しさと哀しみが押し寄せたことだけをハッキリと覚えている。
あの感情ですら、今では風化してしまって、あなたとのやり取りも思い出せない。見返そうにもあなたのお姉さんが、あなたの願い通りにアカウントを消してしまったからそれも出来ない。
だんだんと私の中であなたが風化していく。
その事実が、私はつらい。
私はあなたの顔も名前も知らない。端から見ればきっと赤の他人も同然だけど。
今、どうしようもなくあなたに会いたい。
▶君に会いたくて #55
荒廃した大地に降り注ぐ光の雨。
あたたかな橙と、迫りくる八面玲瓏な夜の闇。
なんだか堪らなくなって、
消えゆく命をひとかけら吐き出した。
死して尚、この世界は美しい。
大切にしてきた宝物。
それはあなたとの思い出のかけら。
こんなに大切に想っていた。
きっとあなたも、悪くないと思ってくれていた。
このまま二人幸せな今が続くと信じていたの。
なのに、どうして。
どうして、私を裏切ったの?
▶どうして #53